複雑・ファジー小説

Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.27 )
日時: 2012/03/25 15:02
名前: クリスタル (ID: 3Em.n4Yo)

 いや、でも、ただのそっくりさんである可能性も有る。この世の中には、ドッペルゲンガーというものが存在するのだから。

 扉の下敷きになっているキルさんのことをずっと眺めていたら、「キルに惚れたの?」と、エリーゼさんに言われてしまった。

「まあ、確かにイケメンだから、惚れてないとは言い切れ……いや、惚れてない、惚れてない! 惚れてないです!」

 慌てふためく私の事を、エリーゼさんは小学生のように「ヒューヒュー」と、冷やかす。

「……レイシー?」

「え?」

 誰だ、今私の事を呼んだのは。声と音源からして、キルさんであることはわかっている。でも、私はキルさんに名前を教えていないはずだ。

 もしかして……———————————————

「私の名前を知っているということは、ストーカー的な何かですか!」

「馬鹿か。自意識過剰だ」

 『馬鹿』。初対面の人に向かって馬鹿。

「でも、何で私の名前……」

 木製の扉に下敷きになっている状態でうつむくキルさん。なぜか沈黙になる。

「………………………………………」

 この沈黙を、『カーンカーンカーン』という、鉄か何かを叩く音が録音されたテープレコーダーさんがつないでくれてる。

 カーンカーン……カーンカーン……カーンカーン…この沈黙、何時まで続くのだろう。カーンカーン……カーンカーン……カー「うるさいわね」エリーゼさんが近くに落ちていた斧をテープレコーダーに投げつける。ばきゃっ。

「大体、テープレコーダーで沈黙をつなぐな。時間が勿体無いわよ」

 エリーゼさんには、勿体無いお化けでもついているのかもしれない。

 少し間が空いて、「さてー、本題に入るけど」エリーゼさんの本題とはどれのことですかっ。

「キル、あんた、なにサボってんのよ!」それか。それのことか。

 キルさんは、ハァとため息ついて「もう、仕事なんてメンドーなんだ」と、顔色一つ変えないで、真顔で答えた。

 木製の扉をどけて、立ち上がり、続けた。

「こんなに毎日帽子に囲まれて、帽子帽子の人生。朝、昼、晩に帽子。もう、帽子好きだったのに嫌いになってきたんだ。見ていると、吐き気がする。汚らわしい」

「師匠、帽子食べてたんですかぁ。三食、欠かさず食べてたんですかぁ」

 さっきまで呪術的な儀式を行っていたノエルが会話に入ってきた。あれ? 近くで見るとかわいい。でも、男だよね?

「師匠、人生は楽あれば、苦もありですよ。それに、その吐き気がするほど汚らわしい帽子、あなたの頭の上に乗ってるじゃないですか」

 と、ノエルが言った瞬間、キルさんは帽子を地面に叩きつけた。

「俺は帽子屋なんてやらない」

 そういって木製の扉の下にこもってしまった。

「エリーゼさん。帽子屋の仕事なのに、どうして『カーンカーンカーン』の音なんですか?」

「ああ、それね。一言で言うと、あいつがマッドハッターだから」

「へぇ、全然分かりません」

「うん、分からなくてもいいよ」