複雑・ファジー小説

Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.58 )
日時: 2012/07/15 19:10
名前: クリスタル (ID: YOt4GnQH)

 くぁぁと、あくびをして眠たそうな目で僕を見つめるアリス。

「眠いなら寝ればいいのに」

「誰のせいで起きたと思ってるの……」

 アリスは、もう一度あくびをした。

「一昨日から出かけていたみたいだけど、どこに行ってたの?」

「えと……」

 さて、どう話そうか。まずあっちの世界に行って、レイシーが生きていた事を話そうか。

 でも、アリスはレイシーの存在自体が許せないらしいから、実は生きていたなんて言って、殺しそびれた僕が生きていられるか。

 大体、階段から突き落とされてどうして死んでないのか。骨折と記憶を失うだけで済むなんて。いったいどんな体のつくりをしているのか。

「ちぇしゃぁ?」

 考え込んでいても仕方ない。アリスがレイシーを殺しそびれた僕にキレて、殺されないように少し身構えながら、一昨日から今日までの出来事を大体全て話した。


 僕の話を聞き終えたアリスは、怒りと憎悪に燃えた瞳で僕を睨んでいるんじゃないかと心配になったが、頭の上に疑問符が見えそうなほど、お話が理解できなかった様子。

 眠気で、半分以上聞いてなかったのかと思ったが、話が理解できなかったのは、話の中の登場人物の殆どを彼女は知らないようだから。

「えーと、帽子屋とシロウサギは知ってる気がする。…名前くらいなら」

 本当は思い出そうとすればわかるはずなのに、都合の悪い記憶や、興味のない記憶は、頭の奥の奥の記憶ボックスに封じ込められているようだ。

 特に、シロウサギの存在は確実に忘れてはいけない存在なのに。それすらも封印されているなんて。

「あとさぁ、チェシャが2回も殺しそびれたっていう子、レイシーって……だぁれ?」




















……はぁ?

「え、なにいってるの?」

「レイシーって、だれ?」

 帽子屋とシロウサギは、名前だけは覚えていたはずだ。なぜ、レイシーが出てこない?

「レイシーだよ? 君が世界で一番大嫌いな、れい、しー」

 おかしいだろ、思い出してよ。

「でも、私の記憶にそんな名前は無いもの」

「…なんで、なん、で」

 記憶の奥の奥の、さらに奥…最下層。そこで鍵のかけられた箱に「レイシー」は、永久封印されていた。

 どうやったら最下層のその箱に手が届くだろうか。


Ⅲ【L'erreur du chat noir 〜黒猫の過ち〜】  完