複雑・ファジー小説

Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.68 )
日時: 2012/07/15 19:01
名前: クリスタル (ID: YOt4GnQH)

 私は頭を打ったりなんて、そんな馬鹿なことしてない。してない、してない。

「おひゃようぞだいます」

 棺おけのなかからノエルが謎の挨拶をしてきたけど、私もエリーゼさんも無視。

 帽子屋の小屋の中には不可解な置物がたくさんあった。その中に棺おけが置いてあったのが昨日から印象的だったけど…。

「ノエルは…バンパイアなのか、な?」

「…はい?」

 ノエルがバンパイアなら、棺おけで眠っていた事とか、不健康そうな肌とかのことが説明できる。

 ノエルが、少し不満そうな顔で

「えと…僕の挨拶については、コメントくれませんか? ボケてみたんですが」

「うわ、面白くない」

 本心を告げると、口を尖らせ、不機嫌そうな顔になった。あ、かわいい。

「そういえば、キルはどこにいるのかしら?」

 そうだ。キルさんの家なのに、キルさんがいない。なのに居候の3人がいる。

「帽子職人の朝は早い。とか言いながら、朝早くに出かけましたよ」

「あいつ、真面目に帽子作ってないくせに。まあいいわ」

 エリーゼさんはなにやらぼやきながら、小屋の戸棚をあさる。

 シャキーンと、ワインボトルを二つ取り出して、その両方を開封……。

「朝から飲酒、してみたかったのよね〜!」

「エリーゼさんて、何歳ですか?」

「永遠の18歳よ!」

 未成年の飲酒は、法律的に禁じられているはずじゃないのか。

 そう言おうと、口を開きかけた時ノエルがそっと教えてくれた。

「彼女、実は三十路の手前です。29年生きてます」

「…長生きね」



 勝手にお邪魔しているわけで、何もすることが無いので小屋の中をぐるぐる(100週以上)していたら、ノエルがゆで卵をくれた。

「わあ、ゆで卵。ありがとう…」

 殻まできれいにむいてくれちゃって。殻をむくのが一番楽しいのに。

「僕、ゆで卵しか作れないので、喜んでもらえて、嬉しいです」

 そうか、そうか。こちらとしても、嬉しがってもらえて、嬉しいけど…ゆで卵をもらっても、実は嬉しくないんだよ。

 とりあえず、にこにこした。

「…ヒック」

 それにしても、ゆで卵、オンリーて。家庭的という言葉からかけ離れすぎると、そうなるのか。

 ずっとニコニコしていたら、ノエルもにこにこ。…塩とか、もらえないのかな。

「レイシーさんは、ハンプティダンプティ食べるの初めてですか?」

「はんぷちーでんちちー……?」

 私ほどのリスニング力じゃ、聞き取れそうも無い名前だった。

「実は僕、調理するの初めてで…自信ないんですけど、どうぞ」

「ういっく」

「調理って、茹でるだけじゃない…」

 …気にしないように心がけたけれど、さっきから、酔いどれウサギが煩い。静かにしてくれないかなぁ。

「あと、僕卵アレルギーなんです。触るのも無理なんですよねえ」

「……じゃあ、何で得意料理がゆで卵なの……」

「不思議ですね、アハは」

 心のこもってない乾いた笑い声だった。

 がちゃっ。キルさんがなぜかビショ濡れで帰ってきた。

「…沼に落ちたわけではないぞ。雨が降ってたんだ」

「師匠、まだ何も言ってません」