複雑・ファジー小説

Re: 鏡の国の君を捜して…… ( No.9 )
日時: 2012/05/10 20:49
名前: クリスタル (ID: 3Em.n4Yo)

 とても心臓に悪い、リアルな夢だった。

 真っ赤な滴が宙を舞う光景……それだけ、異様に現実的だった。

 思い出すと、吐き気がするので、無理やり忘れる。だが、忘れようとして忘れられるわけも無いので、また吐き気に襲われる。

 窓の外を見ると、あたりは既に夜のトバリが下りていた。時計の針は、午後10時頃を指している。眠りすぎて、頭が痛い。

 母親は9時頃には、仕事も終わって帰ってくるが、今日は出張らしい。

「……うう……気持ち悪い…」

 さっきの夢が、忘れられない。とても、生々しい夢。あと、血の匂いもしたかも。おぇ。

 結局、あの夢のイケメン男は誰なんだろうか。一体何を呟いていたんだろう…。そして、あの後、どうなったのか…。

 まあ、夢だから。夢だから、あの後なんて、想像するだけ無駄だ。あれは夢だから!

 バンッバンッと、やたら乱暴に玄関の扉を叩く音でわれに返った。手の平で、本気で叩かないと、あんな音は出ない。そんなに乱暴に叩く必要が有るのか。もしや嫌がらせ?


 自分の部屋を出て、フラフラと歩き玄関と扉を開く。

 『こんな夜遅くに何のようだ!』と、苦情を言ってやろうと思っていたのに、感動するほどの美人だったので、言葉が詰った。

 ショートボブの、20代前半くらいの美女。これは誰が見ても、美人だというであろう。たとえ老眼でも、乱視でも。

「………………………………………」

 なぜか沈黙が続いた。訪問しておいて無言だなんて。

「………………………………………」

「………………………………………」

 この沈黙が、後30秒続いたら、用は無いのだろう。

「………………………………………」

「………………………………………」

 よし、用は無いんだろう。そっと玄関の扉を閉めた。

「ちょ、普通、そこでドア閉める!?」

「じゃあ、何か言ってくださいよ。用、あるんですか?」

 そして、再び沈黙が。

「あんた、名前は?」

「え、用はそれだけですか?」

 驚いたので、聞いてみると、顔色ひとつ変えずに、

「今のところはねぇ」

 当然、見ず知らずの人間に名前を教える気は無い。

「怪しき女性よ、さよーならー」

 ドアを閉めようとしたら、その女性が締まるドアに足を挟んできた。

「ひぃ!」

「いい加減にしなさいっ。あたしだって、好きでこんな雑用をしているわけじゃないのよ!」

 無理やりドアを開けて、私の髪の毛を引っ張ってきた。

「ちょ、ハゲる!」

「とにかく名前を言いなさい」

「いやだ! ポリスマン、呼びますよ!」

 私も抵抗して、女性のほっぺをひっぱる。

「いたた! なにするの——…」

 女性の目線が私ではなく、真後ろに変わった。

 彼女の目線の先には、小柄な黒猫がいた。

「あ、かわいい。おいで、ニャンコ〜」

 猫は、私を軽く威嚇して、

「誰がニャンコだって?」

 と…。あれ、猫喋った?

 いや、猫が喋るわけが無い。…じゃあ、今喋ったのは、誰?

 女性が、私の髪の毛を放し、猫をにらみつけた。

「ここに何をしに来たのかしら? 用が無いなら消えてくれる?」

「用が無いなら、わざわざこんな所には来ないよ。僕は、そいつを——レイシーを殺しに着たんだ」

 まって。猫が喋った上に、名前も知られている? しかも、殺すって? 今日は、幻聴が激しいなぁ。

 猫の姿が代わり、一人の少女になった。幻覚まで。私、大麻なんて使って無いのに。

「ぎゃーーーーーっ! 猫が、人になった!」

 私のリアクションは、誰にも相手にされず。華麗にスルーされた。カレーにスルー。あはは。誰か笑って。