複雑・ファジー小説
- Re: Dream Revival —再生の協奏曲— ( No.19 )
- 日時: 2012/03/26 13:55
- 名前: 夏樹 りん ◆IP0D6MCWdg (ID: mP9fdSv/)
しばらく笑いあったあと、ユイトが尋ねる。
「なんで、来衣……ちゃんは空からふってきたんだ?」
「プッ」
「なんで笑うんだよ!」
「だって!」
先ほど呼び捨てするなと言われたことを思い出し、ちゃん付けして呼んだら笑われた。ユイトはキレていた。
なぜだか、ユイトの周りには黒いオーラが漂っている。
「だって、無理して言ってるもん! メッチャ面白かったよアンタの顔! アハハハハ! そして、ちゃん付けやめろ」
笑いながら言っていた来衣だが、急に声のトーンが下がった。あまりの急さに驚いたユイト達。ユイトの周りにあった黒いオーラも消えていたという。
「ごめん……」
「別に誤らなくてもいいから。これから仲良くしよーぜ、ユイト!」
来衣が笑顔で言い手を差し出す。それにつられて笑顔になるユイト。そして差し出された手を握り、握手を交わした二人をミヤとソリチュードは微笑ましく見つめていた。
「で、なんで空からふってきたんだ?」
「知らん」
「即答!」
ユイトが尋ねて一秒も掛からずに答えが返ってきたのでミヤたちは何故だかつっこんだ。
「アタシが知りたいよーってか、名前しか覚えてないや!」
「えぇええええええええええええええええええ!」
「なんだと……」
大げさに驚くのはユイトとミヤで、ソリチュードは驚いてはいるが冷静だ。そして、かすかに来衣を疑っていた。本当に記憶喪失なのか? なら、何故「日本」などと聞いたことの無い単語を発したのか。
一方、来衣はかすかに罪悪感があった。記憶喪失なんて勿論嘘。ココは「日本」では無いから、そして、「地球」でも無いと思った来衣は嘘をついた方が良いと考えたのだ。まず、容姿からして日本では無いと思ったからだ。ユイトは茶髪に蒼い眼。少女は黒髪にピンク色の眼。ソリチュードと呼ばれた少年は銀髪に紅い眼。どう考えても地球にいる人種でこんな容姿の人はいないだろう。地毛とかだったら、テレビとかで話題になるだろう。
自分の知らぬ場で、相手が知らない場所から来たとかいっても信じてもらえるわけが無いのだから、「記憶喪失者」を演じて過ごした方が良い。来衣はそう考えた。
——まぁ、ソリチュードは信じないだろうけど、ユイトなら絶対に騙せるだろう。罪悪感は在るけど、生きるためなんだから仕方ないよね。それより、我ながらわざとらしいな……
「それは大変だ! 俺、みんなに知らせてくる!」
「私も!」
「え! ちょ!」
ユイトとミヤは本島へ向かって走り出した。
——マジで信じちゃったよ。疑うことを知らないのか、あの二人。
「おい」
「ん? 何かな、ソリチュード君だったけ?」
「呼び捨てでいい」
「そう、で何? ソリチュード」
鋭い目つきで聞いてくるソリチュードに少し脅えた来衣だった。
「記憶喪失ってのは——嘘なんだろう?」
「おっ! 鋭いね〜」
「なめてんのか?」
「なめてないよ〜でもさぁ、この世界じゃない所から来ました〜なんて言って信じる人なんていると思う?」
「どういうことだ」
鋭いソリチュード。やはり、嘘と気付いたのだろう。来衣は予想済みだったので驚いてはいないが。
「簡単に言うとね〜アタシ、異世界から来ました〜的な?」
「……なるほど、異世界からきたとか言って怪しまれるより、記憶喪失者を演じるほうが生きていきやすいと思ったから嘘をついたわけか」
「物分りいいね〜」
「いや、俺も幼い頃は『この世界』にはいなかったからな」
「え?」
この世界、ここ以外にも世界があるという事なのだろうか。考え込む来衣だったが、ソリチュードがあまりうるさくなかったので良かったと思っていた。
「まぁ、嘘だって事は黙っておくがアイツらに何かしたら許さないからな」
この一言で、ソリチュードは頼れる存在と認定した来衣だった。
「此処は、何処?」
ただ、真っ白な部屋で少女は目覚める。今まで眠っていたのだろうか、そう感じた。少女は椅子に座って眠っていて、今目覚めたのだ。
「そうか、私、眠っていたんだ。あの時から……」
眠りにつく前の記憶を思い出した少女。そして、彼女の頬から涙が伝った。
「どうしていないの? 隣に居た筈なのに……」
隣に居たはずの「彼」が居ない。でも「彼」の名さえも思い出せない。
「え? 分からない、分からない……」
少女はただ、泣き崩れるだけだった。
とある街、今は夜。
時計塔の上から少女は夜の街を見下ろす。
「時の乱れ、再生不可能。滅びを待つ定めなり……」
待ちを見下ろすのをやめ、振り返ると金髪の美しい女性がいた。
「女王陛下、こんばんは……」
女王と言われた女性は尋ねる。
「秋星、やはり……滅ぶのですか」
「はい……」
「私の命を奉げれば……」
女王は顔を俯かせる。彼女はこの街、国を治める『時ノ国の女王』。
そして、特別であった。
「陛下、貴女様は『清き時』に生まれたお方。貴女様が時ノ女王になれたのはそのおかげ……ですが、貴女様が命を奉げれば誰がこの国を治めるのです? 今は城に居るもの以外『清き時』に生まれたものは居ません。城に居るものに治めさせるのはよろしくないかと……」
「彼女が居ます」
「まさか……」
彼女たちの考えは破滅へ傾くのか、再生へ傾くのか——