複雑・ファジー小説
- Re: また明日. ( No.13 )
- 日時: 2012/03/01 22:10
- 名前: coco*. (ID: /u41yojS)
※ここの章だけ、視点がかわります。
第十話【出会い】
彼女の世界は変わった。
「おはよう、夏帆ちゃん」
「…………」
彼女は、玩具だ。
彼女の名前は、飯室旭と言った。クラスの中ではいわゆるほんわかタイプの、成績は中の上、中学二年生。
彼女は二年の春に転入してきた。この学校にも、なじみ始めてきた秋ごろ。
(なんで?)と胸がしめつけられるような気がした。
教室に入っても、「おはよう」と声をかけても、自分の存在を認めてくれる人が、急にいなくなった。
昨日まで、笑顔で自分の所に来て「おはよう」と返してくれてた人がいたのに?
「夏帆ちゃん? ……どうしたの?」
「……」
夏帆ちゃんとは、彼女の友達"だった"存在。
夏帆も彼女を"見えない存在"にしている。
彼女は、泣きそうになった。
「ばっかじゃねーの」
彼女の耳元で、確かに、かすかに、そう聞こえた。
気分を落として、教室に入る。
誰も彼女の方を見ようとはしなかった。
だが。
「飯室さん。おはよ〜うッ」
「あれッ? いつまでも前の制服着て、どうしてこの学校にいるの?」
どうやら、理由は制服らしい。
(仕方ないじゃない)
——
彼女は、それからよく授業をサボるようになった。
進入禁止のさくを超え、屋上へ行くようになった。
「……」
屋上が、彼女の大好きな場所になった。
「あれ」
後ろから声が。
振り返ると、男の子。
世間で言う、イケメンだろう。
だが、彼女は興味を持てなかった。
「あなた、何してるの?」
「お前こそ、なにやってんの? 俺は、サボり」
「別に。授業がつまらないからここにいるだけ」
「それ、サボりっつーの」
男の子はふっと笑って彼女の頭をなでた。
彼女は、それでも感情をもてなかった。
「……」
「上履きの色、黄色って事は、二年生?」
「……はい」
「じゃ、後輩だ。俺、三年の中島陽斗」
(中島……陽斗)
心の中で、小さくつぶやいた。
「サボり仲間として、よろしくね」
「……背、高いですね」
「ははっ、俺ー、百七十八、あるよ。そっちは?」
「百五十六……」
約二十センチ差だ! とはしゃぐ先輩。
目を細めて彼女は先輩を見つめる。
また、先輩はふっと微笑んで、
彼女の頭を、優しく、優しくなでた。
彼女の胸は、ときめいていた。