複雑・ファジー小説
- Re: また明日. ( No.15 )
- 日時: 2012/03/03 19:29
- 名前: coco*. (ID: /u41yojS)
第十二話【遥の話】
もう、屋上には行かない。
——行かないんじゃない。行けない。
そう思いながら涙をぬぐった。
ちょうどその時間の国語は自習で先生がいなかった。
ドアの前で、彼女は目をこすり涙の跡を消した。
ドアの音がして、クラスにいる誰もが彼女の方を見る。
「……」
「あっれェ?! なんで、飯室がいんの?」
「あいつ、いつもサボってんじゃん? 何かあったんかな?」
ひそひそと、友達同士顔を見合わせ、話し始める。
彼女は気にせず、うつむきがちで席についた。
「あ、そうだ。遥ね、陽斗先輩に告りに行ったんだって!」
彼女の肩は、ビクリと反応した。
「まじで?! でもさ、遥と陽斗先輩って、近所で親達も仲良しだし、幼馴染なんだよね? OKかもね!」
「うらやまし〜、あんなイケメンと〜」
「出たよ、あんたの男好き」
彼女の話題はほんの一瞬しか触れられず、先輩の話になった。
(そっか……うちのクラスの人だったんだ)
名前すら、うろ覚えだった。
いじめられた当時は、名前すら忘れるほど、必死だったから。
すると、小さく扉が開いて、ツインテールに結んだ、遥が教室に入る。
遥の友達と思われる女子、……いや、男子もが遥へ視線が注がれる。
「遥ぁ〜! どうだったあ? 告ってきたんでしょ?」
「うん、告ってきたよ」
遥は、彼女の顔を一瞬見て、視線をそらし友達へ笑顔を向けた。
彼女は、遥の方を向けなかった。
「結果ね……ダメ、だった」
彼女は、驚いて長い髪を揺らし、思わず「えっ」と遥の方を向く。
遥は笑顔をだんだん無くし、そのままうずくまって泣き出す。
「何見てんのよ、飯室」
「大丈夫?! 遥ぁ……」
友達達が一生懸命遥をなだめる。
彼女は、自分をいじめてきた今の遥の姿を、素直に「かわいそう」と思う事ができた。
数分後、やっと落ち着いた遥は、友達にかこまれながら、机に突っ伏していた。
男子も、遥の方を見て、話をしている。
「なんで?! 仲良かったんじゃないの? 陽斗先輩と」
「……うん…………」
遥は机に突っ伏したまま、つぶやくように返事をした。
「理由は? 聞いたの?」
「……うん……」
「なんて?」
「好きな人が……いるんだって」
エェーッと友達達が頬に手にあてる。
彼女は、ますます驚く。先輩に好きな人がいたなんて。
「それがね……」
「? うん? どした、遥」
「それがね」と言った後、遥の鼻をすする音が、聞こえた。
クラス全体が、遥の言葉の続きを待ち遠しく思っている。
「好きな人がね、この、クラスの中だって……」
そう聞いた瞬間、彼女は何の考えもなしに、走り出していた。
もちろん……、屋上へ。