複雑・ファジー小説
- Re: また明日. ( No.18 )
- 日時: 2012/03/04 21:26
- 名前: coco*. (ID: /u41yojS)
第十五話【デート】
(今日は色々あったなー……)
ふぅ、と彼女は一息つく。
殺風景な部屋の中のベッドに、バフッと乗っかる。
「……初めてだったな……」
キス。
(あたしの、ファーストキス)
先輩が初めてで良かったな、と顔を赤くしながら思う。
明日こそ、笑顔でいよう。
先輩が、望んでいるあたしの笑顔で。
ベッドから降りて、鏡のそばへ寄る。
指で自分の口を無理やり笑わせてみる。
頬が痛くなって、じんわりと彼女の目から涙が出そうになる。
「……ダメ……笑えないの……」
上手く、笑えない。
前に笑ったのは、いつだろう。
それすらも忘れてしまいそうだった。
**
「な、今週の日曜、二人で出かけねぇ?」
「えっ」
(そ、それって)
デート?
(嬉しい)
彼女の頬がピンク色に染まる。
先輩は少し微笑んでから、
「どこ行きたい?」
と問いかけた。
先輩と行きたいところ……。
(映画かな? それとも動物園? 水族館とかも、いいのかな?)
「俺は、旭の行きたいところならどこでもいいよ」
「……じゃあ——……」
デート当日。
(何、着てくかまだ決まってない……)
タンスの中の服を全部ひっくり返した彼女の部屋は、まさに初デートをする一般の女子の部屋のよう。
「ああっ、時間が……」
彼女が時計を見ると、もう八時半はまわっていた。
待ち合わせは十時なのに……。
待ち合わせ場所までは、約十五分。
(一応三十分は余裕を残して陽斗を待っていたいから……っと)
頭の中ですばやく計算をする。
今から最低でも四十分で支度しないと。
彼女はすばやくリビングへ向かう。
両親は、今日も仕事みたいで、家の中には彼女だけだった。
「服……どうしたら可愛く思われるのかな」
(あたし、何着ても似合わない)
でも……、初デートだからって、そんなにおしゃれしていかなくてもいいよね。
案外先輩も気にしないかもしれないし。
彼女は、直感で普通に選び、九時前に家を出た。