複雑・ファジー小説

Re: また明日. ( No.19 )
日時: 2012/03/05 22:26
名前: coco*. (ID: /u41yojS)

第十六話【復讐】※キス描写有


「はぁっ、はぁっ……」

彼女は九時十五分に待ち合わせ場所についた。
こんな格好でよかっただろうか。
今更になりながらも、自分の服装をレストランの窓を鏡代わりに見る。

薄い水色の、水玉模様の服と、白いフリルのスカート。ブーツ。

(やっぱり、センスないし、可愛くないだろうか)

服装を見て二十分は経った。
まだ彼女は不満げにスカートをヒラヒラとさせている。

「ねー、かーのじょ! 俺らと遊びに行こうよ」
「……え」

静かに振り向くと、彼女のまわりに数人の男性が。
彼女よりはるかに年上だと分かる。

「……あ、たしっ……今から待ち合わせしてるんで……」
「いい女には、男がいて当たり前! 彼氏よりいい男でしょ? 俺」
「……(こいつのどこが陽斗よりかっこいいって?)」

すごい形相で睨むと、男性達は少々引き気味だが、それでもつっかかってくる。
レストランの窓に攻めよれられて、彼女は身動きすらとれなくなった。

(陽斗……!)

しかしあと待ち合わせまで約三十分ほどある。

「何、やってんだよ」
「あぁん?」

男性達が、いっせいに後ろを向く。
そっと目を開けてみると。

「は、ると……」
「俺の女に手ェ出すんじゃねぇ」

先輩はずかずかと男性の方へ歩み寄り、胸倉を思いっきりつかんだ。
男性は冷や汗を掻き、「わ、わかったよ」とそそくさ逃げていった。

「ったく、なんだあいつら。大丈夫か、旭……」
「は、はぁ……なんとか」

そう答えたものの、先輩は動きを止めたままだ。

「あ、あの陽斗……?」
「あ——〜〜……」

先輩は何故かそこにうずくまってしまった。
彼女は、ワケが分からず、「陽斗?」と聞くと、顔を真っ赤にさせて言うのだ。

「旭、私服可愛すぎ」
「?!」
「可愛いんだから、警戒心持って……クダサイ」
「え、け、警戒……?」

急にほめられ、どうしたらいいのか分からずおろおろする彼女。
そんな彼女に先輩はふっと声をもらして笑った。

「さ、行こっか」

そういって先輩は彼女の肩を自分の体に寄せた。

初デートが始まった。


**


「うわああああああ! やば、あうああぁ!」
「陽斗、隣で騒がないでください!」

先輩はジェットコースターが苦手だ。
今、また「旭助けてええぇ」と叫んだ。
それに比べて彼女はジェットコースターなど屁のようだ。
叫びひとつしない。

「はー……あ、さひ……」
「面白かったですね、陽斗」

息切れしている先輩には目もくれず、彼女はスタスタと歩き出す。
先輩は、そんな彼女を見て、もっと好きになったみたい。
にこっと笑って「ちょっと待てよー」と彼女の後を追いかけた。

「旭、俺の事呼び捨てなのに、敬語っておかしくないか?」
「へ? そうですか?」
「いっそ、敬語やめてよー」

彼女はしばらくうーんと上を向き、「じゃあ、分かった」とタメ口に変えた。


**


「何、飯室も今日来てるの? 遊園地」
「……違う……一人じゃない」

「えっ? じゃあ誰と?」


「……あれっ……陽斗?!」
「え、うっそお! ほんとだ!!」


「——遥……脅してやらない?」







「……うん」


**


一日遊園地で遊んだ二人は、歩いて帰った。

「……クスクス」
「な、何笑ってんの? 旭」
「だって、陽斗ジェットコースターに怖がってばっかりなんだもん」
「仕方ないだろ! 嫌いなんだから!」

あはははは、と彼女は笑う。
嬉しそうな彼女に、先輩はもっと嬉しそうな顔をした。

「良かった、旭が笑ってくれて」
「え?」
「ずーっと話してきてさ、一度も笑った顔見たことないんだぜ。見たかったから」

それも……そうかな……。
そういえば、一度も笑顔を見せたことない。

「直に言われると、なんか照れます」
「あはは、超かわい——……」

また、顔の距離が近くなる。
今度は、「え」という暇もなく、二人の唇が触れた。
三秒だけじゃなくて、何秒も、何秒も。

「……っ」

一回、唇を離して、もう一回キスをした。

(先輩の唇、前よりも少し熱い……かも)


「んっ……」

また、声が漏れる。
幸い、辺りには人はいなく、見られた人はいないように見えた。


——が。


「ずいぶん仲が良さそうですね。飯室、さんッ!」


勢い良く飛び出してきたのは、





——遥だった。