複雑・ファジー小説

Re: また明日. ( No.24 )
日時: 2012/03/09 20:20
名前: coco*. (ID: /u41yojS)

第二十話【切ない】

「……」

俺は放心して、メールを返信する力もなかった。
旭の笑顔の裏には、あの先輩がいたんだ。
別れたわけじゃない。お互いまだ愛し合っているんだ。

失恋決定だ、俺。

カッコ悪ぃな……。

俺、一人で勝手に勘違いして。
再会できたからって。
覚えてくれてたからって。
名前を呼び捨てにしたからって。

全部全部、イコールが恋になるわけじゃない。

ピルル..

メールを受信。もちろんこんな時間に来るのは、森だ。

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from:森 藍子

ちょっと!
大丈夫?

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「……っあー」

俺は額に手を当てた。
くそ、痛ぇ。



「おはようございます、日向」
「……はよ」

俺は旭の目を見た。
旭はニコッと可愛らしい笑顔を俺に見せて、席に戻っていった。

「日向!!」

はぁはぁと息を切らせて森が俺の方へずかずか歩いてくる。
旭も、ビックリして森の方を見る。

「ちょっと来て!」
「ちょ、え、な」

俺は口答えすることもできず、森に引きずられながら廊下へ出た。

「何だよ、森」
「あんた、旭ちゃんに言ってないでしょうね、あたしが言ったこと、昨日!」
「言ってねーよ。言ってどうなるんだよ……」

それを聞いて森はほぅ、と胸をなでおろした。

「良かった。言わないでね、口止めされてて、日向は信用して言ったんだから」

人差し指をたてて、俺を睨む、森。
はぁ……言うわけ、ないだろ。
言ったところで空気が悪くなるだけだし……。

「ああ。分かったよ」
「えへへっ」

森は笑って、スキップしながら教室に入っていった。

席に着くと、不思議そうな顔をして旭が首をかたむけている。

「……っなんでも、ないよ」

無理に笑顔を作り、旭に見せた。

「そうですか?」

そう言いながら、旭は前を向いた。
隣にすました顔で座っている森に、こそっと耳元でつぶやく。

「じゃ、それっぽいことは聞いていいんだな?」
「え、ひな……」
「なあ、旭、旭」
「? なんですか?」
「旭って彼氏いるの?」

ブーッと思わず森がふきだす。
旭は困った顔になり、森はぐにゅっと俺の足を強く踏んだ。

「や、やだなぁなんか俺疲れてるわ。旭なら彼氏なんて簡単に……」
「えっ」

踏まれる強さはますます強くなっていく。

「あ、ああああ。いっ……嘘、だよ。気にしないで」
「……」

真っ赤になっている旭を見て、流石にやりすぎたか、と反省する。
隣を見ると、案の定森がすごい形相でにらんでくる。

「ご、ごめんごめん」
「ごめんじゃねーーー!! 殺すよ、マジで!」

笑ってるのか、怒ってるのかよく分からない顔で、ふんっと横を向く。

そんな森に俺は思わず苦笑い。


次の授業は、移動教室だ。
俺はふわぁ、とあくびをしながら教室に向かっていた。

森は、他の女友達と一緒に行き、特に友達も作らない俺は一人で廊下の端っこを歩いていた。

すると、

「日向!」

振り向くと俺を見てるのは教科書を抱えた旭。
走ってきて、俺のそでを引っ張った。

「この後の授業は、二人でサボりませんか?」
「えっ」
「イヤじゃ……なかったら……ですけど」

ぎゅっと旭が目をつむっている。

「……いいよ」

ふっと笑う。

「じゃあ! 話したいことがあるので、屋上へ行きましょう」
「ああ」

そういえば、屋上は旭が好きな場所だっけ。
ここの屋上は普通に出入りできるので、ここで授業をサボる生徒も多々。

屋上についてから、一言。

「朝、聞いたでしょ。日向が、「彼氏いるの?」って……」
「ん……ああ」

やっぱり、その話か。


「実はですね……——」

俺は、メールで聞いたことをもう一回言われた。
だんだん、話していくにつれて、旭の目は潤んでいき、最後の方は、涙で何も聞き取れなかった。

俺は思わず、その小さな、小さな旭の肩を、抱きしめた。