複雑・ファジー小説
- Re: また明日. ( No.3 )
- 日時: 2012/02/22 21:35
- 名前: coco*. (ID: /u41yojS)
第二話『やきもち』
「あ、あの、あたし渡辺さんの事覚えてます」
「え」
な、なんでだ?
もう、数年前の話なのに、覚えてくれたんだ。
顔は良くないし、悪くもない、女子の話題になんか出たことないようなやつを?
ともかく、覚えてくれてたのには、驚きだな。
「そ、そっか!」
「……渡辺さんと目が合ったとき、絶対覚えてないだろうなって思ったんです。だから、覚えててくれてびっくりです」
いや、いやいやいやいや。
びっくりなのはこっちなんだけど。てか、忘れるワケないだろ。
俺はふっと微笑む。飯室も、少し頬を赤くして、微笑んだ。
あぁ、やっぱり可愛い。
それはともかく、さっきから森が俺達の事をまじまじと見ている。
「やっぱり付き合ってるんでしょ?」
「……付き合ってねーよ」
別に、この関係を変えたいとは思わない。
付き合いたいとも思ってない。進展なんて望んでない。
このままでいい。
飯室は飯室で、他に好きな人とかいるんだろうな。
そう考えたら、告白して気まずくなるより、再会してこのまんまの関係がいいんだ。
俺は片思いでいいんだ。
俺は、……こういうのでいいんだ。
その後授業中に雑談していたのを先生に思い切り怒られ、授業の合間の十分休憩。
「ねえ、飯室さん。旭ちゃんて呼んでもいいかな」
「ええ……どうぞ」
と、話しかけているのは女子と思いきや、ほとんどが男子。
なんだよ、「旭ちゃん」って。
中一の時知り合いだった俺ですら、「飯室」なのに。
「旭ちゃん」とか。
こう思う俺は絶対やきもちを焼いてるんだ。
他のクラスメイトも美人が多いけど、多分俺の予想だと飯室が転校してきて、ほとんどが飯室狙いになったな。
十分休憩が終わり、男子が自分らの席に戻ったとたん、森が大きなため息をついた。
「あ〜あ。休み時間終わっちゃった。旭ちゃんと恋バナしたかったのになあ」
飯室の頬は、真っ赤になっている。
「……」
とたんに、ばちんと目が合った。
……どうしよう。
「あーっ! また見つめあってるう!」
「いや、違う。違うから」
森の助け舟に乗って、俺はなんとか目を離すことができた。
先生が教室に入ってきて、授業が始まる。
「……ねえ、正直さ、日向って旭ちゃんの事好きでしょ」
「はっ?」
隣を見ると、森はつまんなそうにシャーペンをかちかちしていた。
は? なんでいきなりそうなるんだ?
他の男子ならともかく、俺は森に勘違いさせるような行動は……。
「旭ちゃんて、可愛いよねえ」
「……」
そう言う間にも、森はシャーペンをいじっていた。
俺も、持っていたシャーペンを、くるくると回す。意外に、ペン回しは得意だ。
可愛いよ。
女子に興味なんてなかった俺が、初めて可愛いって素直に思えたやつだからなー。
「さあね」
心とは裏腹に、微妙な答えだった。
「ふぅん」とつぶやいて、森はノートをうつしはじめた。