複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.25 )
- 日時: 2012/02/26 11:03
- 名前: 霖音 (ID: 7D2iT0.1)
『オンボロ夏休み』
暑い日だった。
一ヶ月とどれぐらいだっけ。算数は苦手だ。
「なっちゃん!おしぼり持っていきんさいよー!」
どんくさい割烹着を来て、母さんがやってくる。
ぼろっちい家の、靴が散らかる玄関。
せまっくるしいから早く出たかった。
「かばんに入れると濡れるー!」
なるべく大きな声でいい放つ。
夏休み。こんなところじゃ遊ぶとこないし、つまんない。
親は二人揃ってけちんぼで、どこにも連れてってくれない。
ないないだらけのど田舎で、私は色んなつまんないを抱えてる。
つまらない家。つまらない街。つまってない脳みそ。
ちっぽけな頭は、太陽の暑さでぐつぐつ言ってた。
私は、この村に唯一あるコンビニを目指し、自転車をこいだ。
私の家が小さくなる。それが楽しくて、足に力をいれた。
風がないならおこせばいい。
扇風機にあたるより涼しい風が、ほっぺの汗をぬぐっていく。
自転車は私の背丈にぜんぜん合ってないお古。
大きすぎてよく転ぶから。膝からしたは傷だらけ。
可愛くない色してるから、田舎を走るにはあってると思う。
どんな空色よりも青々とした空は、大きな雲をかぶっていた。
この先に宇宙がある。やっぱやめた。考えるの嫌い。
急な坂道を登ったりくだったり。涼しいけど汗はだくだくだ。
田んぼの緑しかなかった風景は、コンクリートのへいとへいで隠れた。
その先を行くと、酒屋やら八百屋やら。商店街になる。
八百屋のじーちゃんが私を見てにこにこしてたから、見えないとこで唾吐いた。
変わる風景が、早く早くと私を急かす。
涼しさ欲しさに車輪が回る。ぐるぐるぐるり。
くっさい魚屋の前を通りすぎて、やっとコンビニが見えてくる。
友達がガリガリ君をかじって待ってるのも見える。私も食べたいな。
「なっちゃんおーそーい!」
「しゃーないじゃん遠いもん!」
私の自転車がなかなかコンビニについてくれないから、大声でやりとり。
周りの人がくすくす笑う。悪かったね。
ぎぎぎとばかな機械みたいな音をさせて急ブレーキする。
友達の顔を見るのは久しぶりだった。
「あついねー!」
汗で風呂上がりみたいになってる髪の毛してたから、少しすまない気分になった。
「今日どこ行く?」
「暑いから川行こう!駄菓子屋で爆竹買って遊ぼうや!」
友達の顔と私の顔。夏の光でてかってて、野暮ったい。
「そだ、土手の家のけんちゃん誘おう。
カエル爆弾教えてもらおう!」
げらげらと笑う私達、可愛くないワンピース来て、自転車こいで。
山も周りも変わらない緑。空も変わんない。
だけど、きもちわるいくらいコロコロ変わる私達の心。
ばかみたいに笑ったり怒ったり、それがたのしい夏休み。
宿題なんかためといて、遊ぼうや。
変わんないオンボロの夏休みの空が、私達を守ってくれますように。
おわり