複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.27 )
- 日時: 2012/02/26 17:06
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/view.html?771365
さて、当日。
集合場所に行くと、金魚模様の藍色の浴衣を着た。
白い肌に、藍色の浴衣はとても良く似合っていて、随分落ち着いた雰囲気があった。ちなみに、俺は灰色の浴衣である。
「似合ってんな」俺が素直に褒めると、螢は頬を染めてはにかんだ。
その後俺たちは、露店を回って行った。
螢の強い要望で、最初は綿菓子を(何でも、「綿菓子はお祭りの露店しか食べれない」という。あんまスーパーマーケットで売られてないからな)。満面の笑みで、綿菓子を食べていた。
次にリンゴ飴、かき氷、たこ焼き……。
「って、食ってばっかだな!」
はたと気づいて言うと、螢は真っ赤になって言った。
「ご、ごめん!! そう言えば、武全然食べてないね」
「いいよ。見ているだけでお腹いっぱいになるし」
でもあんま食べると太っちゃうぞ、といじわるっぽく言うと、螢は更に顔を真っ赤にして、「大丈夫だもん!!」と言った。
「にしても、混んでるなあ」
ガヤガヤと騒がしくなっている。田舎だから人口は少ないだろうな、と思っていたけど、かなりの人数だ。
「ちょっと待って、武!」
螢が小さく叫んだ。どうやら人ゴミに巻き込まれ、動けなくなっているようだ。
全く、下駄なんて履くからだろ、と思いながらも、俺は彼女の方に手を伸ばした。
「あ、ありがとう」
そう言って掴む螢。——螢の手は、相変わらず冷たくて、ボロボロで。でも——最初に会った時よりも、小さく感じた。
人ゴミから出ても、俺と螢は手を繋いでいる。
「——手、大きくなったね」蛍が言った。
「まあ、あれから十年以上経ったからな」苦笑気味で俺が答えた。
「十年……か」
そう言った彼女の顔が、あまりにも酷く辛そうで、悲しそうな顔をしていた。
「螢……何かあったのか?」
俺は彼女に聞く。今まで何も聞かなかったけれど、今回ばかりは聞かずにはいられなかったんだ。
「……武」うつむき、小さな、でも良く通った声で彼女は言った。
「もう、私、来年には逢えない」
「……どういう、ことだ?」俺が聞くと、螢は俯きながら言った。
「私ね、生きている人間じゃないの」
「……うん」気づいていた為、受け流す。
「死んで——お盆の時だけ、この世に来る事が出来るの」
「……うん」何となく気づいていた為、受け流す。
「——でも、それは、生まれ変わるまでなの」
「……つまり、それは」
次の言葉を待てずに、螢はぱっと顔を上げて、微笑みながら言った。
「私ね、日本が戦争中に死んだの。——ほら、私の瞳って、蒼いじゃない? 肌も真っ白だし、髪の色もちょっと薄いし。これ、外人の血を引いているからじゃなくて、遺伝子の異常でなってしまったものなの。色素が薄くなって、蒼くなっているんだ」
「……」俺は黙って、彼女の言葉を聞いた。
「でも……その頃、アメさん(アメリカ人の事)と喧嘩していたから、アメさんだと思われて、差別されていたの。——だから、地下に在る座敷牢に閉じ込められていたわ」
そして、そのまま死んだの。彼女はそう言った。
その言葉は、とても乾いていて。それでも、彼女は笑い続けた。
俺の、一歩前を歩いて。
「——私、これでも十八だったのよ。栄養も身体も悪くて、太陽の光も浴びれなくて、暗くて、寂しくて、そのまま死んだわ」
「……自分をそうした環境に置いた回りは、憎く無かったのか?」
俺が尋ねると、螢はわざと明るい声で言う。
「全く憎く無かったわけじゃないけど——でも、私幸せだったの。
生きている間だって、家族は私を見捨てなかった。寂しかったのは、家族が空襲に巻き込まれて死んでしまったから。死んだ後も、誰かに気づいてもらったし、何よりも、武、貴方に会えた」
そう言うと、螢は俺の方に振り向いて、真っすぐ俺の目を見て言った。
「あのね——私、武の事が大好きだった。
武と居るとね、ココに居るって感じるの。モノクロに見えたモノが、一気に色鮮やかに染まるような感じがして。とても楽しくて、嬉しくて、とっても、幸せだった」
ニッコリ、と、幸せそうに。その言葉が嬉しくて、俺も目を細めて微笑んだ。
「でもね——やっぱり、私は貴方とはいられないの」
抑揚のない声。
「——貴方は、生きている。これからどんどん成長していくだろうし、どんどん変わっていく。
でもね。私は……『変われない』のよ」
「……!」
ずっと思っていた事を言われ、俺は言葉を失う。
「『永遠』なんて、虚しいものだわ。何も変わらないものなんて、存在しないし、存在してはいけないの。
だから……もう、武とは逢えない。逢ってはならないの」
何も言えなかった。ただ、時間が流れて行った。
太鼓の音が響く。川辺の方に人が集まり、灯篭を流していった。——もう、灯篭流しが始まっているのだ。
「……もう行かなきゃ」螢がそう言った。
「じゃあね。またね」
螢が言った、その時だった。——気づけば、俺は螢を抱きしめていて。
最初、彼女は呆気に取られていたけど、すぐに俺を抱きしめてくれた。
螢の身体は、冷たくても、何処か陽だまりのような暖かさで——。
数十秒して、俺は彼女の身体を放した。
その時、俺はどんな顔をしていたか判らない。ただ、「じゃあ、またな」と螢に言った。
螢は、とびっきりの笑顔で。
「ええ!! また、逢いましょう!!」
螢は、川に流れていたが、やがて光を纏って空へ上がって行った。
回りには、ロウソクの光と蛍の光が飛び散っていて。
お盆。十年間の、淡くて儚い、初恋だった。
終
後書き
妖と人との悲恋を書こうと思ったら、何だか良く解らぬ産物に……((汗
あ、参照を押すと挿絵に飛びます。拙い絵ですが、見て下さると至極光栄ですw