複雑・ファジー小説

Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.28 )
日時: 2012/02/26 11:14
名前: 霖音 (ID: 7D2iT0.1)

『水色カンバス』

夏の雨上がりだった。この暑い地に、都合のいい打ち水。

水溜まりを選ぶように踏んで歩いた。

大きなカンバスを持ち、片方のかばんの中には筆や絵の具や。

きらきらと輝く昼過ぎを描きたくなったのだ。

若い頃、絵描きになりたくて集めた道具たち。

今や、まったく使っておらず、ホコリまみれになっていた。

神社の境内の前のおおきな木の下で足を止める。

カンバスを立て、鉛筆を使い下書き。

鳥のさえずりと時折響く雨水の音。

全てを絵で現せたら。そう思うぐらい綺麗だった。

下書きを終え、一息つく。その時だった。

びちっと、雨音がすぐ目の前で鳴り、消えた。

下書きしたばかりの紙に、雨水の染み。

「あ」と思っていたら、また一つ。また。

木から滴った雨水が、僕の絵に落ちてきたようだ。

どうしようもないと思い、ぼーっとしてると、ある考えが浮かんだ。

カンバスにその紙を貼り付け、パレットに絵の具を出す。

そして、雨水のところに、馴染ませるように色をつけた。

違和感は消えないが悪くない。僕は、他の場所にも色をつけていった。



しばらくたった。瞬きも忘れたりしながら、色を塗り終える。

雨水の滲んだところがよく目立つ。

だけど、すごくいい出来だ。

僕は、道具を片付けて、家に帰ることにした。

夏の思い出は、色んな色に、輝く水色が散らばって、きらきらしてて。

きっと、一生忘れないと思う。


おわり