複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.29 )
- 日時: 2012/02/25 22:00
- 名前: 霖音 (ID: 7D2iT0.1)
『水玉ワンピース』
新品のワンピースを買った。
白地に薄い青の水玉模様。夏にピッタリだと思った。
「なんでこうなるの〜!」
土砂降りの雨。気分よくでかけた帰りの駅のホーム。
仕方がないので、駅で傘を買った。
せっかく気分よかったのに、雨なんて。
蒸し暑さもくわわり、髪の毛が乱れてしまう。
じめじめした気分で歩いていると、ふと、不思議なものを見つけた。
さっき雨が降りはじめたばかりなのに、一つだけ。
よく目立つ大きな水溜まりを見つけた。
太陽が雨雲で遮られているというのに、きらきらと光輝いていた。
その不思議な水溜まりは、長く見つめていると、引き込まれてしまいそうだ。
私は、ふっと我に帰る。新品のワンピースが濡れないよう、に。
なのに。
「きゃ?!」
サンダルをはいた足が、前のめりになった。
抑えることができないまま、重力に従い、体が落ちていく。
いやだ。ワンピースが。そう思っていても、目は水溜まりへと一直線。
きゅっと目をつむる。ああ、何でこんなについてないんだろう……。
ふわ。
体は、固く冷たいコンクリートに倒れこむはずだった。
ふわっと、体が浮いたような気分になる。
目を開けてみると、私は、大きなふわふわのクッションにうつ伏せになっていた。
あまりに衝撃的だったので、しばらく状況がのみこめない。
これは夢?そう思った時だった。
ぐんと、体が落ちる感覚が伝わってきた。
風圧は私をすり抜けて消える。どこに落ちるのか全く分からない。
「きゃあぁぁあああ!!」
ワンテンポ遅れて出た悲鳴。出してもまだまだ落ちていく。
不思議な事に、私が落ちていくと、まわりが綺麗に色づいていく。
どこに落ちるのか、下を見ると、モノクロの世界がいつまでもつづいてる。
私が落ちてきたところは、カラフルに色づいて、魔法のようだ。
私はどうなるのだろうか。どこに落ちていくのだろう。
いや、落ちているのかも分からない体は、ただただ落ちる。
私は、耐えられずに、目を閉じた。
「起きて!ねぇ!起きてって!」
声が聞こえる、私の声?
私は、ぼぅっと、瞼を開けた。
周りには、何もなく、ただただ、草原が広がっている。
見たことのある青空がある。
ここはどこ?
私は、ゆっくりと体を起こした。
「よかったー!やっと起きた!」
うん起きましたよ。
……、誰?!
私と同じ声が響き、動揺した。
「そんなこわがんないでよ」
私の隣には、同じ、新しいワンピースを着た自分がいた。
誰。これ。私はただ、水溜まりの前でこけて、カラフルで、それから。
何だっけ?
「この服とこの色……、外は夏かなぁ」
のんびりと意味の分からない事を言う自分。
「ねぇ、あんた誰?」
私が尋ねると、面白がるように自分は笑った。
「そりゃあ、私は私だよ!」
「そんな事言われても分かんないよ!」
私が強くそう言うと、自分は驚いた顔をして、「どうしたの?」と聞いた。
「どうしたも何も、私は水溜まりの前でコケたと思ったらこんな事に……!」
それを聞いた自分は、ああと理解したような顔をして頷いた。
「ここに迷いこんじゃったのかぁ!」
は?
「多分、あなたの世界で言うパラレルワールド、即ちここに落ちてきたんだよ」
青空の広がる夏の色をした世界の中で、私は途方に暮れた。
「水溜まりは、自分のそっくりさんがいる世界の入り口なんだってさ」
自分は、何ものみこめない私を無視して言った。
- Re: 言霊〜短編集〜(コメント募集!) ( No.30 )
- 日時: 2012/02/26 10:54
- 名前: 霖音 (ID: 7D2iT0.1)
「そう、なんだ……」
「あれ、やっと理解した?」
非現実的だけど、こうなった以上認めるしかないと思った。
おどけたような自分に聞いた。
「ここって、色無かったの?」
私がここに来るまでに見た不思議な光景。
ここも、私が来たから色付いたのかもしれない。
「うん」
自分は、一言そう答えた。
少し寂しそうに答える自分を見ると、なんかモヤモヤした気分になった。
「色がないってつまんない?」
「うん」
ただ、うんとだけ答える自分。私がこの世界に来るまで、ずっと一人だったのかな。
何も分かんないから、私はこう言った。
「また来るからさ」
そう言うと、自分は、ぱあっと明るくなった。
「本当に?」
「うん。いつになるか分かんないけどね」
私は、ずっと広がる緑の草原でねっころがって言った。
「ありがとう!」
自分に言われるありがとう。なんだか嬉しくなった。
すると、ざらざらと音を立てて、自分から色が消えていく。
「時間切れだね、あなたも早く帰った方がいいよ。
色がなくなると出られなくなっちゃうから」
色が消えていくこの世界を見て、泣きそうになった。
「さようなら」
私がそう言うと、意識は途切れた。
私は、ふっと我に帰る。
新品のワンピースを濡らさないように歩く。
じめじめした雨は止んでいた。
私はきらきら輝く水溜まりに向かって呟いた。
「また行くからね」
爽やかな夏の色と匂いを、届けに。
終