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複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜 ( No.3 )
- 日時: 2012/02/20 19:06
- 名前: あんず (ID: S86U/ykR)
『桜の記憶』
「綺麗だね...」
勿論、返事はかえってこない。
春がくるとこの川辺は桜がめいっぱい咲き乱れるんだ。
でも貴女はそんなもの気にも留めず一心不乱に自分の右手を見つめている。
あの頃の僕は画家を目指していた
右手が何よりも大事で
美しい色を紡ぐ自分の右手はとても大切なものだった。
『シン君は絵を描くために生まれてきたんだよー。』
大きなトラックから僕を庇って
貴女は記憶を失った。
「綺麗だね.............」
再度呟く。
僕は今日も貴女を載せた車椅子を押しながら川岸を歩くのだ。
ごめんなさい。
僕は一生をかけて貴女に償います。
だから
どうか神様
もう一度あの笑顔を見せてー。
暖かな風が吹いた。
まき散らされる
桜。
「確かに綺麗だけど、シン君の描いたやつの方がずっと素敵だよ!」
「.................!?」
記憶がないはずなのに
なんで去年あげた絵のことを覚えて................。
いや、やめておこう。
これだけで僕は幸せだ。
またいつもの調子に戻ってしまった貴女を見つめながら僕は幸福を再確認した。
ーfinー
あんず
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