複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜(『夏』完成!コメント募集!) ( No.52 )
- 日時: 2012/03/05 19:38
- 名前: 茜崎あんず (ID: UnXRlUte)
『秋雨ノベンバー』
11月7日(wednesday)
二回目のデートは多摩川の川辺を選んだ。
理由はあれだ、夕日が綺麗に見えるから。
彼女の誕生日まであと一週間。喜んでもらえるといいな。
11月8日(thursday)
今日も彼女は可愛かった。
あれから何一つ変わっていない。
変わっていない。
君が好きだ。
11月9日(friday)
彼女は今日も美しい。肩にかかった髪をかき上げたまま
僕に微笑んでいる。ずっとそのままなんだ。
壊れた眼鏡が宙を舞う。
11月10日(saturday)
土曜日だ。僕は何をしているんだろう。
そういえばあの日も雨が降っていたっけ。
彼女の本はどろどろのグチャグチャで僕の部屋に置いてある。
返したい
返したい
君に
会いたい
11月11日(sunday)
今日も雨が続いている。
赤い雨。
紅の雫が僕の服をぬらした。
長い悲鳴。
ヘッドライトが光って
現れたのは。
11月12日(monday)
あと二日で君の笑顔がもう一度見れる。
花のような微笑。
二人で見た
葉桜。
高らかな君の声。
「花の色は——。」
11月13日(tuesday)
あと一日だ。どんな服を着ていこうか?
君の好きな色は何だっけ?
雨がやむといいなぁ。
トラックが啼いている。
11月14日(今日)
「遅いなぁ・・・」
時計を見やる。君はまだ来ていない。
ビニール傘を握り締めた。
しとしとと反射、反乱して、氾濫するのさ。
君の生まれた日、11月14日。
大好きな君にまた会いたい。
あの夏のデート以来、会っていないからなぁ。
僕のクラスの委員長をしていた彼女は、しっかり者で地味な仕事ばっかりしてる目立たない子だった。
肩にかかる黒い髪。特にオシャレという訳でもなく、なのに。
惹かれてしまった。
頭の良すぎる彼女はクラスでは浮いた存在で、いつも屋上で一人本を読んでいた。
僕は一人ではいられない。つるんでいないと弱いけど。
彼女は崇高だ。美しくて強い。
笑顔の可愛い彼女は案外普通の女の子でビックリしたけど更にドキドキした。僕の言動にいちいち顔を赤らめて。
可愛い。
愛してる。
家に送ってあげるって言ったのに、一人で帰れるよって言ったから。
優しいな、人に気を遣える子なんだな。
そして
唐突に理解した。
君はもうやってこないって。
どれだけ待っても。
トラックが通り過ぎる。
水溜りを撥ね、黒の雫が僕の服をぬらした。
小さな舌打ちを漏らす。
君はもういないんだって
分かった
涙は出てこない。
僕のせいで消えた彼女の為に。
雨の中僕は笑う。
そして————。
−fin−
あんず