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複雑・ファジー小説
- Re: 言霊〜短編集〜 ( No.9 )
- 日時: 2012/02/21 16:32
- 名前: 結城柵 ◆ewkY4YXY66 (ID: khvYzXY.)
【雪解け】
「ハールちゃんっ」
まだ肌寒い教室の廊下側の席。読書に勤しむ少女に、彼女の真面目そうな容姿とは、まるで真逆な少年が声をかける。
少女は、ちらりと一瞬少年を見ると再び本へと視線を落とした。その顔には何の表情もうかんでいない。完全なる無表情だ。
しかし少年は、特に気にした様子もなく話し続ける。
「ハルちゃん、この展覧会行きたいって言ってたじゃん?俺と行こうよ」
「お断りします」
即答。その少女の様子に少年は、やや残念そうにチケットを仕舞う。少女は、少年の存在など無いもののように読書を続ける。
「ねーねー。ハルちゃんってさ、笑わないよね。笑ってほしいのになぁ…」
それでもめげずに続けた少年の言葉に、少女は読んでいた本を閉じ、深くため息を吐いた。それから、少年を見る。
「逆に、どうしてそこまでして笑わせたいんですか。毎回毎回。私をからかってるんですか?」
やや、不機嫌そうな声。それでも少年は、柔らかく笑う。
「からかってないよ。だって、好きだもん」
「…なんですか、その理由」 まだ、雪の残る3月中旬。春が近い。
少女の、柔らかく笑った表情が、それを伝えていた。
『ゆ』きどけ
by結城柵
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