複雑・ファジー小説

姫は勇者で魔法使い。 ( No.30 )
日時: 2012/05/02 18:33
名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: 7tezM94T)
参照: 扇子「これが真の役得だ!!(`・ω・´)(キリッ」な回。

「そんなこと知らないわよ〜。 あんな平民の子に高額な給料を払って、しかも、兄弟共々城に住まわしてあげてるんだから、十分じゃないの〜」

母上が胸の谷間から取り出した無駄にゴージャスな扇子で軽く扇ぎながら冷たく言い放った。
「なんてところに扇子をしまっているんだ」というツッコミはさておき、妾の方から本題に触れる。

「確かに階級は平民じゃが、執事としては優秀なのじゃ!!」

確かに少し変態……じゃなくて変わったところもあるが、執事としての通常業務も家庭教師としての仕事もしっかりこなしている。
相手が妾のような人でなければ、勉強の方も成果が出ているだろう。

母上は役職柄、相手の身分を重視している。
彼女自身、上流貴族——しかも、元大臣の娘であったこともあり、昔から身分が低ければ最初から相手にしないということもあったらしい。
父上がいた頃は彼が取り仕切っていたから良かったものの、父上が亡くなり、母上が国のことを取り仕切るようになってからは平民階級からの不満が強くなってきている。

妾は特に仲の良い友人であるミコガミが平民階級であることもあり、会議の時にはでしゃばって意見するのだが、大概却下される。
「あの平民達に絆されたのだろう」と言われ、取り合ってさえもらえない。

それどころか、最近は会議に出してさえくれないことだってある。

一応、会議に関することは法律で定められており、皇族は14歳半から出席が可能となる。
妾は16歳だから、既に出席できるのだが、法律よりも母上の言葉が重んじられている故、「出席することが出来ない」ということもあるのだ。

「それは貴方が本当に優秀な執事を知らないからよ〜。 子供は甘言に弱いんだから〜」

母上が呆れたような、それでいてバカにしたような表情でそう言った。

横に座っているクロヌをチラッと見ると、いつも通り、仏頂面を浮かべている。
だが、長い付き合いである人間なら違和感を覚えるだろう。
よく見ると、唇の内側を噛んでいたり、自らの太ももに爪を立てていたり、と何かを我慢するかのような仕草が見うけられる。

いつも仏頂面で割と無口なため、誤解されやすいが、彼は仏頂面なのも無口なのも人見知りをするせいなのだ。
実際、妾達には冗談や軽口を叩くというようなこともするが、女中や騎士団の部下とは話をしているところすらも、ほとんど見たことがない。
しかし、基本的に見た目に似合わず、たまに過去の戦争で亡くなった部下や上司の墓に献花しに行くこともあるくらい、優しく仲間思いでなのだ。

そんな彼の性格からして恐らくそうだろう、と思ってはいたが、あれらの仕草を見て確信した。
間違いない、クロヌも妾と同じく怒りを覚えているようだ。