複雑・ファジー小説
- 姫は勇者で魔法使い。 ( No.44 )
- 日時: 2012/06/12 22:10
- 名前: 野宮詩織 ◆oH8gdY1dAY (ID: L3t15YTe)
「姫、見ーつけた」
少女と僕の間に、白髪の少年がひょいと顔を覗かせる。
少年はどうやっているのか不明だが、天井からぶら下がる形で現れた。
「ぬああああっ!?」
そんな彼の出現にビックリした少女は、腰が抜けたのか、床にへたり込んだ。
少女のリアクションに満足したのか、少年が身軽に着地する。
この子はちゃんと知り合いだ。
オルドルと仲良くしてくれているヒジリくんを覚えていないはずがない。
「なんじゃ、ミコガミか……。 驚かすでない」
少女が床にへたり込んだまま、偉そうな口調でそう言った。
なんと形容したらいいのかよく分からないが、とにかく可愛い。
この子がオルドルと結婚してくれたら、自動的に妹にはなるが、それだと世間からオルドルがロリコンだと言われてしまうし……。
「姫が黙って出て行くから、オルドル達が怒ってるぞ? 早く戻らないと、昨日のクロヌみたいに夜通しで説教を喰らうことに……」
「なりますよ」
ヒジリくんが少女に手を貸して、起こした瞬間に彼らの後ろからオルドルが現れた。
「なんや、オルドル。 こないなん早く帰ってくるんなら、言ってくれれば良かったんに」
オルドルの前だと安堵からかどうしても方言が強く出てしまう。
いつもはなんとか標準語でしゃべろう、と努力してみるのだが、オルドル相手だとついつい……。
「兄さんはベッドで寝てて! 僕にはまだ仕事が残ってるから。 帰ってきた訳じゃなくて、姫様の潜伏先がここだった、ってだけだし」
ん……?
姫様……?
オルドルにベッドの方へと押し戻されながら、今までの自分と少女の会話を思い出す。
小さい背丈、青い瞳、上から目線な「のじゃ口調」、全身から漂っているアホの子オーラ。
まさか————
「まさか、この子が姫様なんか……?」
「今更!? しかも、何故、そんなに驚いた表情をしておるのじゃ!?」
僕をベッドに戻し終えたオルドルによって、ドアの外へと引っ張られている少女がそうツッコミをいれる。
「随分、庶民的な感覚を持った人だなぁ」などとは思ったが、口には出さない。
ただでさえ、間接的にとはいえ、「救いようのないアホ」とか言ってしまったし、次に何か失礼なことを言ったら不敬罪とかで捕まってしまうかもしれない。
「というか、汝は敬語以外もしゃべれるんじゃな」
少女が最後の砦であるドアノブに掴まりながら、上目遣い気味に自分の手を引っ張っているオルドルに問いかける。
「仕事とプライベートはきっちり分けるタイプですので」
オルドルが完璧な営業スマイルを浮かべて、少女の腕を引くと、ついに彼女はドアノブを手放してしまい、そのままオルドルに引きずられてどこかへ行ってしまった。
受け取ったメモの返事はどうしたらいいのだろうか……。
「あっ、そうだ。 今月分のやつ、持ってきたぜ」
そうだ、ヒジリくんがいるんだった。