複雑・ファジー小説
- Re: 或る日の境界 ( No.11 )
- 日時: 2012/03/28 17:40
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
わけの分からない眠りから覚めて、気付いたら朝で、隣には何故か銀髪少女が寝ていて、そこは境界と呼ばれる現実であって現実でない異世界で、イレギュラーと呼ばれる異形のバケモノが襲いかかってきて、俺はそれを——銃で撃ち殺した。
「つまり、どういうことだ」
そんな疑問の言葉は、出るべきして出た発言だろうと思う。銃を放った所まではまだいい。俺はどうして、そんなことをしているのか。目の前に危険が迫ったから? 確かにそうだった。俺は殺されると思った。だがしかし——納得がいくはずもなかった。
「つまり、貴方のいた世界は完全に孤立、別の言い方をすればログアウトしてしまった。別の世界が貴方の元々いた世界を上書きしてしまったから」
「……アニメの話をしてんのかよ」
「違う。現実の話。今この世界は、貴方の元いた世界ではない。境界という——」
「それはもう聞いた! 違う! そんなことを言ってるんじゃねぇ! 何でこうなったかだ!」
「それは——貴方自身で見つけるしかない」
ただ冷静に少女は俺へと返答をした。その言葉を聞いて、俺はただ言葉を飲み込むことしか出来なかった。
今現実として、この世界のことを断固として認めたくない——この思いとは裏腹に、既に心のどこかでは認めざるを得ないと断念してしまっている自分がいた。
現実として、引き金を引いた俺がいて、怪物がいた。でも、場所は俺の部屋で、ここは俺のいた世界じゃないのか。
「境界は、異世界と異世界を繋ぐ境界線を繋ぎ合わせた世界。違う世界は世界でも、貴方のいた世界をオリジナルとして上書きしている」
「……もっと簡単にいえないのか」
「……ゲームソフトとゲームソフトの世界観が混合しないように、ゲーム機がある。そのゲーム機がこの世界。違うゲーム機はゲーム機でも、このゲーム機の前世代のゲーム機からさらに改良化したものだから、メーカーは同じ」
……何となく分かったような気がしないでもない。けど、どちらにしても難しい。とりあえず、この世界は元にいた世界とは同じのようで、全然スペックが違うってことなんだろう。それをあわせて、他の異世界と異世界を繋いでいる……ということか。
「……なんでこんなことに……。俺はただ、ゲームして、寝ただけだぞ? 何もしちゃいない」
「それは世界にいた人間全員同じこと。けれど、何かがきっかけでプレイヤーになった者や、選ばれてプレイヤーになった者もいる。しかし、全員がそうなったわけではなく、勿論プレイヤーではない人間が大半この世界には存在している」
「……じゃあ、元にいた世界と、この世界の住民はほとんど同じ人間が住んでいるっていうことか?」
「そう。だから元にいた世界と同じのようで、全くの別物」
ということは、本荘や西城なんかもいるってことか……。全くの異世界ってわけじゃないわけだな。
「あぁ、でも住民が同じなら、記憶はどうなる?」
「記憶は改変されているが、人間関係はそのまま。しかし、根本的に世界が普通ではなくなっていることは確か」
「どういう意味だ?」
「……あと2分経てば分かる」
あと2分という言葉を聞いて、俺は咄嗟に時計を見た。
時計は6:58を指している。つまり、7:00丁度になれば分かるということか。
日差しがカーテンから見え隠れする。しかし、いつもの朝の具合に清清しい明かりではなかった。どことなく、どんよりとしたような雰囲気を保っている明かり。それがカーテンから射しているのに気付いた。
ゆっくりと、俺は立ち上がると、先ほどのバケモノ、イレギュラーが倒れていたはずの場所へと行く。そこには、いつの間にか何もなくなっていた。
カーテンを掴むと、ゆっくりと横へとスライドさせた。そんな俺の行動を、後方からただ無表情で見ている視線は少女のものだとも分かっていた。
「何だ、これ……」
見た光景は、有り得ないものだった。
太陽と同じ形をした黒色の円形が重なっていっていた。ゆっくりと、しかしそれはまるで何かに合わせているかのように。
皆既現象はとどまらず、次第に太陽を埋め尽くしていく。黒く、黒く、日の光はだんだんと失せていく。
この世界で、同じような光景を目にしている者はいるのだろうか。いて欲しかった。そして、この世界を全力で否定したかった。そんな思いがこみ上げていたその時——
ジリリリリリリ!!
——午前7:00を記した、目覚まし時計が鳴り響いた。
——————————
小さい産声が聞こえる。
その産声は、一つだけ。一つだけの産声だった。
生まれたばかりの赤ん坊は、誰に知られることも無く、誰に誕生を祝られることも無く、無常にも一つだけの産声をあげていた。
おぎゃあ、おぎゃあ。
産声がまた一つ。
赤ん坊の行く末を知らぬまま、そんな世界は堕ちていった。