複雑・ファジー小説
- Re: 或る日の境界 ( No.12 )
- 日時: 2012/04/06 13:55
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
「……ここは?」
先ほどまで、凄い勢いで鳴り響いていた目覚まし時計は音を止め、無音になっていた。ゆっくりと体を起こす。
まるで、夢を見ていたようだ。何をしていたんだろう、とふと考えてみながら——気付いた。
「ここは、どこだ……?」
この場所は、俺の部屋ではなかった。全く違う部屋。一人で暮らすには十分な一部屋だが、確かに俺の部屋ではない。シャワーなんかも見たところないし、台所も無い。白を基調とされたこの殺風景な部屋は見覚えがなかった。
そうして、一人で動揺していたその時、突然扉が開いた。
「起きろぉっ! バカ野郎、この野郎っ!」
「……誰?」
ドアの前に立っていたのは、凄い笑顔で、頭に二つ長い赤色のリボンで結ばれている長いツインテールな女の子が俺の学校の制服を着て仁王立ちしていた。その表情、天真爛漫と表したら一番似合うのだろうか。ともかく、その少女の風格はとてもじゃないが朝に行うテンションではないと思う。
その少女はドアを突然開けておいて、そして自信たっぷりに口を開いた。
「ほらほらっ! 朝だぞぅっ! "新入生"ッ!」
「え? あ? 新入生?」
「そうだよ? そうに決まっているじゃないか! バカ野郎、この野郎っ!」
……とか言いながら腕をぐるぐると回しているこの女の子は、何を言っているんだ?
俺の学年は二年のはずで、新入生じゃない。誰かと勘違いしているのか?
「なぁ、俺は二年だぞ? 新入生じゃな——」
「なぁにを言ってるんだぁっ! バカ野郎、この野郎っ!」
少女は無礼にも勝手にあがりこんで俺の元まで来ると、しっかりと腕を掴んできた。こいつ、見た目の割になかなかの握力をしている、というか痛い痛いっ!
「何すんだよっ!」
「何するもこうするも……え? どうするの?」
「知るかっ! 一人で混乱されてもこっちも困るわっ!」
「とりあえず、朝なんだってば! もう早く行かないと、集会に遅れるっちゃ!」
「だから、お前は誰で、何でこんな——って、うわっ!」
俺の腕を引っ張り、無理矢理立たせるようにして少女は腕を引き寄せた。その瞬間、先ほどまで対して匂わなかったが、少女のほのかに甘い匂いが俺の鼻腔に届いた。少しドキリとして、一歩下がるが、少女はそのまま俺を立たせたと思いきや、部屋の外へと引っ張っていく。
「だぁ、やめろって! 待て待て! お前のなんだ、その集会とやらはこんな姿で行ってもいいのかっ!?」
「こんな姿って——行ったらダメに決まってるじゃんじゃん! バカ野郎、この野郎!」
現在の俺の格好は、まあ……言ったら寝巻きっちゃ寝巻きなんだが、パンツ一丁、白Tシャツといういかにもおっさんですよ、と言いたいぐらいの格好だった。
「だったら手を離せっ。それと、着替えるから少し待ってろ!」
「あぁ、分かったでございますです! は、早くお着替えプリーズっ!」
ようやくドアを閉められ、外へと少女は出て行った。見た目は童顔で、凄く可愛い感じなのに、あそこまでうるさいとどうにも……。
ため息を一つ吐いて、俺は着替えを探した——っと、探すまでもなかったな。俺の寝ていたベッドの上にハンガーで律儀にかけられてあった。
それをとって、ハンガーを取り外していると、ガチャッとドアの開く音が聞こえ——
「あ、急いでね!」
「だから、ドアを勝手に開けるなっての!」
「わわわっ! ごめんなすって!」
ガチャン。また静まり返る。あいつは一体何者なんだ……。記憶にない奴だ。なのに、向こうはまるで俺のことを知っているような……ガチャ、
「あの、そういえば——」
「開くなああああっ!!」
——————————
「ったく……開けるなって言ってんのに、何で何回も開けるんだよ」
あの後、2,3回も再びドアを開けられた。まだかー! とか言いながら。
着替えを終えた俺は、ようやく現在少女とちゃんと向かい合っているという状態だった。
「えぇっと……とりあえず、名前を——」
「はいっ! 早く集会行きましょうぜ!」
「え——いや、ちょっ、待てぇぇっ!」
腕を再びがっしりと掴まれて、そのまま引きずられて行こうとするのを何とか静止させようとしたが、少女は「急がないとー!」と言うばかりで、名前を教えてくれるとは思えない状況だった。
「ちょっと待てって! 一体何が何だか……!」
「ふぬふぬ、えっとねー! 木下 刹那(きのした せつな)でございますです! バカ野郎、この野郎は、樋里 由一、だよね?」
「その語尾のバカ野郎、この野郎っていうのは俺のことだったのかこの野郎……って、何で俺の名前を知ってんだ?」
この少女、刹那がとてつもなく焦らせるもので、走りながら話すことになった。
廊下の角を曲がり曲がりしている内に気付く。ここは学校だった。俺は学校の寮で寝ていたのだ。何でそんな所で寝ていたのか。俺はぼんやりと昨日のことのように、何かを思い出そうとしていた。
「ふふふん、秘密だね!」
と言って、俺へとウィンクしてきた。普通に可愛い外見なので、少しぐっと来るものがあったが、それを堪えて俺達はそのまま体育館の方へと走っていった。集会とやらは体育館であるらしい。
何が何だか、今の所分からないことだらけだが、この集会で何か分かるといいんだけど……。
そうしていると、俺達は体育館へと着いた。入り口は二階にあるので、そこまで駆け上がっていく。巨大なスライド式の扉は既に開かれていた。既に大勢の生徒が集まっている。がやがやとした雰囲気の中、列などを揃えたり、クラスごとに並んだりということはせずに、キーンというマイクから聞こえる耳に響き渡っていく音が鳴り響いた。
「あー……マイクテス、マイクテース」
教壇には、既に一人の女教師らしき人物が立っていた。キリッとした表情なようで、どこか抜けていそうな雰囲気を保っているその不思議な女性はマイクを掴むと、突然こう言い放った。
「新入生の諸君……いや、"神"との戦いを始めるプレイヤー諸君。——ようこそ、境界へ」
俺にはまだ、一体何がどうなっているのか、全く理解が出来ていなかった。