複雑・ファジー小説
- Re: 或る日の境界 第1話完結しましたっ。 ( No.9 )
- 日時: 2012/03/20 20:51
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: /HF7gcA2)
(ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバい……ッ!)
殺される。恐怖が目の前として表れ、そのまま己に跳ね返ってきたかのように、俺は怯えていた。
何をするわけでもなく、逃げないといけないと思っていても、足が動かない。銀髪少女の言うような戦うなんて無謀な行為は、もう頭の中にはこれっぽっちとして入ってなどいなかった。
目の前にいるのは、人の姿をした"何か"だった。
銃こそは手で握っているが、どうも全体的にだらりと体が垂れており、おぼつかない足取りでこちらに一歩ずつ向かってきている。顔も見えない。服装は……見たことがあった。これは、コンセレクト・ヴィコーズのゲーム内での服装だった。
有り得なかった。全てが、今この状況が。朝目覚めたら銀髪少女が、という和やかなそうなものも全て吹き飛んで、今実際には俺は——死ぬかもしれないというのだ。
「ふ、ざけんな……ッ!」
小さく、唸るように声を出した。ドダ、ドダ、とバラバラのリズムで歩み寄って来る得体の知れない者から——足の向きを真逆に変え、少女の手を取った。
「逃げるぞッ!」
少女は俺の手に引かれるがままに、二人で走り出した。
第2話:或る日の世界
後方は見ない、見たくもない。だが、相手は銃を持っている。いつ狙ってくるかも——パスッ。
その時、前方の方に銃弾が飛んでいくのを目にした。後ろを振り返ると、おぞましい表情——歪んだ笑みを浮かべ、頭や体中から血を流している"或る日"の俺が殺した、敵がそこにいた。
「う、わああああ!」
無我夢中でドアを開けようとする。が、開かない。鍵なんて開けてはいない。だが、一向に開く気配がない。ガチッ、と何かで閉ざされたような、こんな感覚は初めてだった。
「おいっ! 開けよ! 畜生!」
たかだかアパートの一室。敵が来るのも早かった。恐怖が一気に俺を襲っていく。目の前には——銃口を俺に向けていた。
パスッ、乾いた音がまた聞こえた。その瞬間、左肩に激痛が走る。見ると、銃弾は俺の左肩へと撃ちこめられていた。
「う、ぐぁぁああっ!」
勿論、こんなことは初めてだった。コンセレクト・ヴィコーズは、痛みを感じない、衝撃のみ。しかし、現実として俺は痛みを感じている。そして、銃弾は確実に俺の左肩にある。夢じゃない、嘘じゃない、この痛みは。
「どうして、戦わないの?」
その時、少女がポツリと呟いた。苦しみでもがく俺の姿を、真上から見下ろしている。いつの間にか、俺は座り込んでしまっていたようだ。目の前の敵は笑みを浮かべて更にこちらに近づいてくる。
「貴方の腰元には、武器があるというのに」
「え……?」
その時、初めて気がついた。ゴツゴツした何かが確かに俺の腰元にある。それを右手で探ってみると、そこにあったのは一丁のハンドガンだった。
どうしてこんなものが、という質問よりも、俺は前方の敵を見つめた。
(殺す、のか?)
ハンドガンを敵に向ける。銃口はしっかりと敵を捉えていた。そういえば、この敵は先ほどの肩への射撃から銃を放たず、ずっと俺の方を見つめていた。——気持ちの悪い、笑みを浮かべながら。
ハンドガンを握り締めながら、昨日のコンセレクト・ヴィコーズでの一件が頭の中に過ぎった。血塗れになった死体が、二つ転がる姿。ハチの巣のように、全身を穴だらけにして、血の海が広がっている光景。
再び吐き気が襲ってきた。しかし、それを抑え、俺は葛藤の末に——引き金を引いた。
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その頃、一心に素振りを一人で本荘はやっていた。
何度も振るう竹刀が、振るたびに重く感じる。もう何本もこの竹刀を振るっただろう。ただ、無心に竹刀を振るわせるばかりだった。
「はぁっ、はぁっ……」
息切れも酷くなってきた。汗も足元の方には水溜りのように汗が塗れている。こんな汗臭いと、女子とは言えないんじゃないか、とも本荘は心のどこかで思ったりもした。
「……ふぅ」
と、それから何本か素振りをした後、ため息に似たものを吐いて素振りをする手を止めた。
静かな道場内は、その独特な匂いと自分の汗の匂いが混じり、朝からすると本当に暑苦しい環境のようにも思えた。
(何を、しているんだろう……)
突然、自分の中でそんな疑問のようなものが生まれた。前から思っていた、というより感じていたことだったのだが、今ここで初めて自分の中の疑問として表したのだ。
それから、じっと何を見つめるわけでもなく、まるで黙祷するかのように黙って目を閉じた——が、それが解かれるのも、また早かった。
「練習中の中、悪いんだけども……ちょっち、俺とお話しないかい? お嬢さん」
目を開け、本荘は後方にいる者へと目を向けた。
そこにいたのは、一人の男の姿だった。サングラスをかけ、口元が笑みの形になっているその不思議な雰囲気を放つ男は、本荘へと向けてピースサインをしてから道場の中へと入ってきた。
「——誰ですか?」
本荘は言い放つと、竹刀を瞬時に構え、見知らぬ男の方へとそれを向けた。
男は、おどけたように「おぉ、怖い怖い」という風に笑うと、サングラスを外した。その中にあった瞳は、薄茶色のような色で、どこか鋭そうな目つきを本荘へと見せながら、
「峰木って名前のもんだ。まあ、とりあえず宜しくな。怪しいもんじゃねぇから」
「近づかないでください」
竹刀を峰木の眼前で寸止めする。その対応に対して、峰木はピクリとも動きはしなかった。
「はっはっは、だから怪しいもんじゃないってーの。近づかないから、この物騒なもんを下ろして、話を聞きなさいな」
両手をあげて、パタパタと下へと向けて何度も手首を捻った。その様子に、本荘も呆れたのか素直に竹刀を下ろした。
その様子に満足したのか、峰木は笑顔を見せて右手人差し指をピンと立て、
「それじゃ、お話しをしようか——この世界について」