複雑・ファジー小説
- 夢 ( No.14 )
- 日時: 2012/03/25 17:52
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: Cu5MNTxh)
- 参照: コメ返信はPCが使える時にします
燦々と降り注ぐ太陽光。
その輝きを吸収するかのように、花々は己の身体を踊らせていた。
そんな花々に囲まれながらすやすやと寝息をたてる金髪の少女は、他の誰でもない、幼きころの僕であった。
僕の名前はアリス=アンデュ。女なのに一人称が僕というのは、僕の悪癖のようなものなので気にしないでいただけると有難い。
今、僕がおかれている状況を説明すると、僕は夢を見ている。しかも、何度も何度も見た、『いつもの夢』を見ている。
どうやら僕が小さかった頃の思い出のひとつらしいが、残念ながら僕はよく覚えていない。
そのため、夢も色々と曖昧で、相手の顔はぼやけて見えるし、声もよく聞き取れない。なんでそんな曖昧な出来事を何度も見るはめになってしまったのかは、正直自分が聞きたいぐらいである。
……さて、状態説明はこの辺にしておいて、次は夢の内容を説明していこう。
幼きアリスちゃんは、住んでいる村の近くにある花畑に来ており、そこですやすやと眠っている。
よくよく考えるとかなり無防備すぎたけど、そこら辺はスルー。
しばらく眠っていると、どこからか物音が聞こえてきて、そこでようやく幼き僕は目覚めた。
実をいうと、この世界【アモローソ】には、モンスターと呼ばれる生き物がいて、そいつらは人々を襲ったり、作物を荒らしたり村を破壊したりする危険な存在なのである。
まあ、やられっぱなしという訳ではなくて、そいつらに対抗できる人間もいるし(僕もその一人である。戦法などは後々説明しよう)、人が住んでるところにいれば対モンスター用の結界がはってあるから基本は問題はないんだけども。
だけど、その花畑は結界外のところにあって、しかもアリスさんはそれを承知で村から抜けだしてきていたのだ。全く、我ながら悲しいほど幼稚だぜ。まあ本当に幼稚な頃だったんですけど。
やっと目覚めたアリスちゃんは、慌てて物音の方に顔を向ける。
「————ッッ!」
すると、そこにはなんとなんとモンスター三匹。
二足歩行の蛙で、形が卵に似ており、『フエルグ』と呼ばれている。雑魚モンスターのひとつだ。
でも、当時戦闘技術を身に付けていなかったアリスちゃんにとっては十分な脅威。なるべく物音をたてないようにそっと後ずさりをした。
しかし、
「っあ」
恐怖によりこの先が下り坂であることを忘れていたアリスちゃんは、ころりと転けてしまった。
当然、フエルグもそれに気づく訳で。フエルグ達はアリスちゃんにゆっくりと近づいてくる。
「……ぅあう、助け……ッッ」
頭がパニックになり、動くことすらできなくなったアリスちゃんとフエルグ達の距離は、徐々に縮まっていく。
ああ、もう私は死んでしまうんだ。嫌だよぅ、こわいよぅ……。
心の中でそう呟いた、
————次の瞬間。
「その子に近づくなああああああああああああ!!」
突然、叫び声が鼓膜を震わす。
それと同時に視界に飛び込んできたのな、闇雲に二本のナイフを振り回す、見知らぬ少年の姿であった。
『rgggggggggg?!』
思わぬ攻撃に体を硬直させるフエルグ達。
ほんの僅かな隙ではあったが、それは少年がナイフで雑魚(モンスター)を切り刻むのには十分すぎる隙であった。
『iaggggggggggggggggggggg!!!!』
地の奥底から絞り出されたような奇声をあげて、フエルグ達の体は空気に混ざっていく。
その様子を呆然と見つめていると、少年はそんなアリスちゃんに柔らかく声を掛けてきた。
「君、だいじょうぶ……? 怪我はしてない?」
勿論、やられる前に助けられた僕に怪我などある筈もなく、むしろ辛そうに顔を歪ませる少年を見ているほうが辛かった。
「怪我って……。きみのほうがよっぽど傷ついてるじゃない」
「はは、確かにそうだね。僕、もっと強くならないとだ。攻撃されていないのに体が痛むや」
そう言って、顔の筋肉を無理矢理動かして笑ってみせる少年。
当時の僕と同じぐらいの少年が、三体も相手して戦ったのだ。疲労で体が痛むのは当然のことだろう。
「!?」
突然、少年がばたりと倒れる。
呼吸はしているようなので、恐らく疲労で眠ってしまったのだろう。
アリスちゃんはそっと少年の頭を自分の膝に乗せてやり、そうして優しく頭を撫でてやった。
実を言うと、ここから先の出来事はあやふやになってしまい、僕も覚えていないので説明することができない。
ぼやけた視界だと、二人で仲良く話していることは分かるのだが、肝心の内容は不明である。
まあ、別に分かったところで、所詮は過去の出来事。僕にはどうだっていいんだけどね。
だけど、唯一鮮明に映るシーンがある。
——それは。
少年が眠りから醒めた後、アリスちゃんを見て、少年は目玉が飛びでそうな程、目を大きく見開いた。
その後、人差し指をよろよろとアリスちゃんの方へ向け、そうして口を開いた。
「————————?」
あの時、少年がなんと言ったのかは僕にはわからない。
だけど、一つだけ分かることがある。
——それは、その時に僕が少年を絶望のどん底に突き落とされたような表情になる程の、恐ろしい言葉をかけた事であった。