複雑・ファジー小説

Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.13 )
日時: 2012/03/31 23:42
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
参照: 馬借屋=馬を持たない人のために馬を貸してくれる店。

 「じゃ、後……あ、そーだ言い忘れてた。今日はロットさんのトコ行ってるから、今日は夕飯要らない。時計塔の鐘が鳴っても帰ってこなかったら、ロットさんの所に行ってるって思ってて良いからね。ちゃんと明日の始砲の時刻までには帰ってくるよい」
 「おう解った。何かに遭ったら連絡入れろよ」
 今日まで無かった突然の予定付け足しに、親方は動じもしない。
 ——因みに、ロットさんは親方と僕の家のすぐ近くにある馬借屋(ばしゃくや)さんを取り仕切る旦那で、僕の言う「時計塔の鐘が鳴る」時刻とは午後十一時のことだ。酒場以外のほとんど全部の店が店仕舞いの支度を始める時刻くらいだと目安をつけると分かりやすい、かもしれない。
 おっと、こんなこと考えてる場合じゃなかった。急がんと。
 「それじゃ、お先にー」
 僕は親方から銅貨を三枚貰い、それを大急ぎで腰のベルトに結んだ財布代わりの巾着に押し込んでから、親方が開けておいてくれた玄関から大急ぎで駆け出す。親方は僕の後ろで悠々と玄関に鍵を掛け、何処に隠し持っていたのやら、そのままでもおもしになりそうな薬草の辞典を取り出して立ったまま読み始めた。
 それを尻目に、僕は大通りに飛び出す。真っ先に目指すはロットさんの馬借屋。

 ……親方が余裕綽々? 当たり前だ。
 親方は何しろ凄まじい人で、超が三つつくくらい難しい国家試験を通って軍に起用された正規の軍医なのだ。だから、向こうへ行くのに軍の方からわざわざお出迎えが来る。というか、親方はお出迎えに乗らないと軍に来ちゃいけない。どーもそう言う決まりなんだ、とか。
 で、一方の僕はただの雑用だ。むろん僕も向こうで大事な仕事を山と任されてるけど、それにしたって正規兵じゃないから、軍の本部に行くなら自分の脚で行くしかない。そのくせ僕に任される仕事ときたら、僕がいないと軍人さんが困るようなモノだから、必然的に僕は親方よりも早く行かなきゃならないことになる。
 ついでに行っておくと、僕が向こうでやってるのは、壊れた武器の修理だったりする。

 さて、ロットさんのトコに着いた僕。
 親子三代で年季を入れに入れまくった挙句、真っ黒になったカウンターに肘をついている中々裕福そうなヒゲ親父……もとい、三代目店主のロットさんに馬の借り賃銅貨三枚を渡す。僕が来るのは毎度のことなので、オヤッさんも手馴れたもの。いつも貸してくれる馬のいる小屋の鍵を背後の鍵掛けから取り出して、やっぱり黙ったまま手渡した。僕は一応頭を下げてお礼を言った後、走って馬屋へ。
 百もある馬屋の内、番号は〇〇八。
 「ほんじゃ、今日もヨロシクねー」
 そこで控えているあし毛の若馬に声をかけつつ手早く鞍を繋げ、外に引き出して、小屋にまた鍵をかける。その鍵は旦那に預かってもらい、僕は石畳の通りを全速力でお城に向かって飛ばした。
 町から城へはだんだんと上り坂になる。そこを全速力を保ったまま上りきれるのは彼だけだ。