複雑・ファジー小説
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.14 )
- 日時: 2012/04/01 23:02
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: 六翼の天使の旗=聖扇(フラベラム)。軍の名前の由来。
蹄鉄が石畳を蹴る、軽やかな音の中にまぎれこむ喧騒。
月一で立つ定期市のにぎわいから、毎日立って日暮れに終わる露店市の活発な騒々しさ、職人街での振り上げるトンカチやふいごの金切り声、王宮勤めの人たちの官舎立ち並ぶ中を貫くあまたの生活音、王宮の厳かな静けさを通り過ぎ、本部の緊張感あふれる掛け声と雑用陣の談笑が響く正面通りを駆け抜ける。
通りを駆け抜ける間は手綱を小さく引っ張り、速さをゆっくりと緩めながら、正面の出入り口の少し前辺りで一旦馬を止める。ここで僕は下馬。へとへとの馬に「よくやった」と声をかけてやり、ゆっくり歩き出す。
「はい、そこで止まって。通行許可証を」
出入り口の所で顔見知りの守衛さんに止められた。
顔見知りとは言っても、此処で顔パスなんて言う甘いモノはさすがに通用しない。僕は鞄を引っかき回して通行許可証——赤い地に金糸で六翼の天使と旗が刺繍された布、を樫の木の板に張ってビョウ留めしたやつ——を見せ、中に通してもらう。
入ってすぐ右の馬小屋で連れて来た馬を預け、僕は身と鞄一つだけの身軽な体で、そのまま真っ直ぐに続く道を歩いた。正面には御影石で築かれた重厚な建物、つまり軍の総本部がででーんとそそり立っている。本当なら裏手の演習場の方に用事があるのだけど、回り込むのがメンドーだから突っ切っちゃうのだ。
開放されている正面玄関から中へ。同じことを考えて僕を追い越していく軍人さん達をそれとなく背後から前方に受け流して、僕は僕のペースでのんびり本部の中を突っ切っていく。
少しかかって演習場の方に出た時、耳がはち切れそうな爆音がした。その直後、ざわっとどよめきが広がって、その波が引いたかと思えば、死んだ虫に蟻が群がっていくみたいに音の方に向かって軍人さん達があたふたと駆け寄っていく。
あまりに突然のことでどっかに飛んでいってしまいそうな心臓を押さえつけて、僕も走った。頭の隅っこでは驚くほどの冷静を保ちながら。