複雑・ファジー小説
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.19 )
- 日時: 2012/04/08 03:07
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: 「まだ一章も終わらないのかよ(`д´#)」…返す言葉もございません。
さて、話を元に戻すことにして。僕はまだ頭をさすっている軍人さんに忠告しておく。
「保持の印を深めに彫り直したんで、多分まだ好意的な新しいウィドーネがくっ付いて来てるんじゃないかと。明日は満月ですから、正午の鐘が鳴ったらすぐに日当たりと風通しの良いところに出して、そのまま夜明けまで風と日光と月光を浴びせて下さい。でないと、軍人さんとしての人生終わりますよ?」
僕の言葉は結構キョーレツだったようで、青褪めた顔が引きつる。
「おうふ、それは……流石におれも反省がいるな。解った、ちゃんとしておく」
言ってその人は、ふと思い出したような顔になって、声をかけてきた。
「そう言えば、なんでお前そんなに色んなものから好かれるんだろうな。動物もそうだし、いる所ならウィドネーだのファラーメーだのも寄り付くんだろう? しかも、若くて人懐っこいとは言え、龍も好意的だ。その内お前、ウィドネーの力を借りて空を飛んで行っちまいそうだよ」
「さぁ? 僕のコレは体質だって親方から聞きましたけど。まあ、普段から色んなものに話しかけたりしてますからね。馬とか龍とか、無論ウィドネー達にも。それも含まれてるんじゃないですかね」
それに対しての反論はなく、その人は修理の終わった小銃を手にひょいと立ち上がって、まだまだ痛いのか襲われた所に手を当てて、黙って立ち去っていった。僕も一張羅にくっついた土を払って立ち上がり、演習の邪魔にならないように端っこの方に移動。
芝生の上に座り込み、ふと視界の端できらりと光ったものを見ると、演習場の堅く踏みしめられた土に、これまた軍で支給される短剣が刺してあった。柄と刃の境目の辺りには保持の式が深く掘り込まれて、それを避けるように滑り止め代わりの手垢と埃とで薄汚れた布が巻きつけられている。柄の尻のところには穴が開けられ、そこからつつましやかにぶら下がるのは銀の鎖と銀細工の小さな龍。傍に革の鞘。
今演習している部隊の隊長さんが持っているものだ。今はご機嫌取り中。
この短剣は“土霊(エルデン)”の力を借りて普通の短剣よりも硬さと鋭さを上げてある。それに加え、マメな隊長さんは自分でこまめに研いでいると言うから、きっと細い木の枝なんか表面をサッと撫でただけで落ちる。僕の腕くらいの太い枝でも、四回くらいこすれば切れてしまうだろう。
そんな危険な代物を平然と扱う隊長さん、何とも奇特なことに、銃の統率は上手いくせに射撃の腕前は平凡で、格闘技も普通の人よりも一段上くらいの成績しかないくせに、短剣一本持たせると誰もかなわないのだ。短剣一本で銃の弾と互角に渡り合い、白兵戦のプロ十人と一人で悠々と勝ってみせる。その上エルデンと相当仲がよろしいようで、襲われているのは見たことがない。
技術者としては嬉しい武器の使い方だ。見習いたまえ不精な軍人さん一同!
頬杖をつき、僕はしみじみ眺めていた短剣から目を離して、軍人さんたちの方へと向ける。
統率の取れたムダのない動き。隊長さんからは、進みくるモノに対して受動的な、それでも進みくるモノから確実に陣地を守る、引きながら攻める陣形態への移動指示が飛ぶ。それもまた的確に無駄なく。
平和な国だけど、軍の実力はかなり高い。
もちろん新しく入ってくる人たちの実力が高いものだっていうのも大きいけど、前代の王様のときに集められた人の大部分がまだ残ってるって言うのもまた大きいことなんだろう。荒廃した国で確実に生きていくために、いやがおうにも軍は力を高めていかなきゃならなかったのだ。
これは良いことととらえるべきか。それとも虚しいことととらえるべきか。
僕には分からない。