複雑・ファジー小説
- Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.20 )
- 日時: 2012/04/09 00:29
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
- 参照: 王様のことは親方から内々に聞いてるけど会ったことはない。
三.
演習が始まって数分後、辺りから小さなどよめきが。
ぼーっとしていた僕はそれで現実に引き戻される。何かあったのかときょときょと視線をさ迷わせると、ヒゲをふさふさ蓄えた家臣を何人も連れた、王族の衣装をまとった王様と、その隣に王妃様が鎮座ましましておられた。僕も慌ててそこから立ち上がり、服の裾の埃を叩き落す。
「——おや」
視界の端っこでうごうごしていたのに気付かれたか、王様と王妃様の優しそうな目がこっちに向いた。後から少し遅れて家臣たちの目もこちらを一斉に見てくる。ぎょっとして僕は背筋を正し、出来れば緊張を気取られないように、自然体を装って、帽子をとりつつ頭を下げてみた。
王様までも律儀に頭を下げて、にこにこしながらこっちに近づいてきた。はわわあぁあ、キンチョーするっ。
裾の長い衣装の下でどんだけ大股で歩いているのか、十五メートルくらいの距離をあっと言う間に縮めて、もう目の前まで近づいてきた王様は、満面の笑みと共に僕へダンディな声を掛けてくる。
「キリア君だね」
な、何で知ってるんだこの王様。僕は王様を見たことは今日まで一度もなかったのに。
「は、はい。僕はキリアです。けど、どうして僕のことを知っているんですか? 僕は一度も王様のことをお見かけしたことはありません。お会いしたのは今日が初めてです」
「何、訳はない。王宮の正面通りと言うのは書斎から見えているのだよ。そして、君の話はああ見えて口の滑りやすい軍医中将——君の言う親方からよくよく聞いている」
王様の優しい声の横から、乱入する声一つ。
「ここの兵達からも、武器を修理する名人と聞いておりますわ」
上品な声。王妃様までも、何時の間にか僕の近くに立って微笑んでいらっしゃった。
ああもう、このお二方は僕を緊張で殺したいとですか。心臓が胸から飛び出してどこか遠いところに飛んでいってしまいそうだ。僕は言葉も無く、王様と王妃様を前にして立ち尽くす。そこにまたもお声が。
「さて——少々聞きたいことがある。君は様々なモノと親しむことの出来る体質であり、まだ幼いものの龍と長い親交があると、そのように軍医中将から聞いている。それは本当のことかね」
「確かに、そうですけど……それが、どうかしましたか?」
なーんかヤな予感。王様の声が穏やかに響く。
「いや、無理にとは言わないのだがね。龍を連れて来ることは出来るかい」
……だーッ! やっぱしぃぃッ!