複雑・ファジー小説

Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.22 )
日時: 2012/04/12 21:29
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
参照: キリア君崩壊の巻。

 「わたしと王妃がそちらへ赴く、と言うのはありな話かね」
 ななななななな、ななな、な、なん……だと……。
 そろそろ僕の心臓がハレツしてしまいそう。ついでに脳味噌も粉々に爆発しそう。僕はついに掠れたうめき声も出せなくなって、ひたすらニコニコし続ける王様と王妃様と、ひたすらイヤな顔と驚いた顔を交互に出し続ける側近の方々の顔を順ぐりに眺めた。
 自分自身が酔うほどぎょろぎょろとさ迷う視界の中に、丁度よく親方の姿が映りこんだ。重臣王族の皆様に取り囲まれ、きっと頭の上にヒヨコがピヨピヨと舞い踊っていたであろう僕を見咎めて、親方が苦い顔をしてズカズカとこちらに近寄ってくる。その足音を耳ざとく聞きつけ、王様がようやく顔を離してくだすった。
 そう言えば、王様に対して僕すっごいズケズケとモノを語ったような気がする。
 ……うわああああああぼぼぼ僕なんてことをををおおぉぃぅぉぉぉぁぁぁあああぇぇぇああぃぃぅううっ!?
 「おお、フルーヴゲル軍医中将。丁度君の養子と話をしていた所だよ」
 僕の荒れ狂う嵐の心境をさっぱり無視して、王様は煮すぎてばらばらになりかけたミートボール状態の家臣をてくてくと回りこんできた親方と親しげに話しこんでいる。王様のフレンドリーさ加減に対して家臣が何も咎めないのが不思議すぎる。こ、これが常態? 王様の? 僕の中の常識がどんどんぶっ壊れていくぞ。
 「また龍と逢いたいとでも言ったんですか? 多分養い主が理詰めで返してきたでしょうに」
 おおお親方口調がちょっとキツいよ。でも王様何も言わないし。それどころか何か楽しそうにニコニコしていらっしゃるし! なんちゅー破天荒な王様なんだもう。家臣たちの白い目線も相まってか、頭がくらくらする。
 「確かに、私の提案は全てが完膚なきまでに叩きのめされた。キリア君は確か学校へは行っていないのだろう? この理論的思考と、その思考をあんなにも筋立てて話す家臣も顔負けの話術は、彼の独学かね」
 当事者たる僕を置き去りにして、二人だけで勝手に話が進んでいる。
 まだちっちゃい子どもをつれた二組の親子が、子供のことをなおざりにして自分達の世間話に没頭していく、それをぼーっと見上げてるあの置き去り感と思うと分かりやすい、かな?
 「独学ですね。それを身に付けるために基礎的な読み書きと計算は教えましたが、それ以上の学問はアレ自身が本を読み漁って身に付けたものです」
 「ふぅん。学術的素養はあると見る」
 「あるでしょう。ですが、アレは窮屈な、いわゆる勉強は嫌いですから。学校に入れて勉強させても恐らくは伸びません。アレが勝手に本を読んで勝手に伸びていく分には良いでしょうがね」
 だから親方口調がキツいってば。しかも僕のこと「アレ」って。何で代名詞なんだよ親方のバカッ!

 と、ここで王様が不意に話題を元に戻した。
 「それで、王宮の方に龍を来させるのは家臣の心中的な意味と気候風土的な意味の両要因により無理だということは分かった。して、わたしと王妃がそちらへ赴くという手を考え、キリア君に提案したところで君が来たのだが、君はどう思うかね?」
 流石に親方もびっくりしたようで、目を見開いて王様の安穏極まりない笑顔をにらみつけた。それでもすぐに普段のぶすっとした顔に戻って、手を顎に当てて思案。十数秒沈黙して、答え。
 「出来ないことはありませんが、キリアは何しろ長距離専門の配達屋でしてね。私は私でまた別に色々と遣ることがありますし、二人とも朝はとても早いですよ。そう——始砲(ウェイクコール)が鳴る三十分ほど前に来られますか? そうすれば見ることは可能です」
 王様苦笑。少し背後にいた王妃様も苦笑。
 「始砲の三十分前とはまた、随分な早起きだ。だがわたしも王妃もそれは構わないのだよ、王族の公務は時に徹夜沙汰だ。特に書類のサインには一晩どころか二晩も三晩も徹夜するときすらある。きっぱり言ってしまえば、二日三日の徹夜などわたしも王妃も苦痛ではない。なあ?」
 「ええ、確かに。ただ、夜を明かすとお肌の美容には悪いですわ。うふふ」
 「えー……お話に水を差すようですが。来られますね?」
 「嗚呼、都合の良い日時を教えてくれれば」
 ……ああ、すっげぇ……。