複雑・ファジー小説

Re: 龍の宅急便。 -Bring Heart to Lover- ( No.4 )
日時: 2012/03/23 18:10
名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: OHq3ryuj)
参照: お腹が空いてる時に書くもんじゃないですね。

 一.

 今日の僕も、まさに「いつもどおり」だった。
 四時十分にきっちり親方から叩き起こされた僕は、寝ぼけ眼を擦り擦りだぼだぼの寝巻きを脱いで部屋の隅っこのカゴにぶちこみ、洗いたての配達員の服——焦げ茶色でちょっと袖丈も裾も長い貫頭衣に黒いズボンと黒いブーツ、それから焦げ茶色で綺麗な金色の蝶の刺繍がしてある鳥打帽みたいな帽子と、同じ刺繍がしてある白くて大きな鞄——を上から下まで抜け目なく装備して、二階の僕の部屋から出た。
 板を踏む度にギィギィガタガタ言う木の螺旋階段を下って、廊下からでもぷんぷん良い匂いの漂ってくる部屋……に行く前に、廊下を右折して洗面台の方に行く。そして水を顔にぶっ掛けて寝惚け眼を本格的に覚まし、ブラシで爆発した頭をとかしてから、ようやっと悪魔の誘惑に負ける。
 二人掛けるのがやっとと言う小さな手作り感溢れるテーブルには、既にバターを塗りたくったパン二枚と目玉焼きと、木のボールに山盛り入ったサラダと、湯気を立てるコーヒーと、スプーンとフォーク二本が二人分綺麗に並べてあった。テーブルの端っこの方には大体決まって塩の瓶と胡椒入れと角砂糖入が置いてある。
 あー今日も相変わらずだなーなんてぼけらっと思いつつ、顔を洗ってもまだ覚めない寝惚け眼でぼーっと視線をめぐらせると、丈夫そうな籐椅子には親方が新聞を広げて足を組んで、僕をじとっと睨んでいた。
 僕は慌てて親方の差し向かいにある椅子に勢いをつけて座り込んで、勢い余って後ろに倒れそうになるのを何とか堪えると、呆れたような顔でじろじろと眺め回してくる親方に愛想笑いをして、気難しくて中々誤魔化しの聞かない親方からのお許しが出たので一安心。ようやく朝ごはんにありついた。

 ……それにしても、四時半の始砲(ウェイクコール)が鳴る前に起きてるんだから僕も十分早起きなハズなのに、いつも日付が変わる零時の終砲(デイエンドコール)が鳴るまで起きている親方は僕よりも早く起きて、しかもあんなにぴんぴんしているのが不思議だ。一体いつ寝てるんだろう?
 フォークにサラダを突っ掛け、口の中では同時に頬張ったパンと目玉焼きをもしゃもしゃやりながらそんなことを思っていると、親方が今まで新聞に注いでいた、全盛のアザミの花のような色をした目をこっちにじろりと向けてきた。ぎくりとした僕はまたもせかせかして目の前の至福に集中することに。
 一心不乱に朝ごはんを平らげる僕と裏腹に、親方は新聞を読みながら無造作に自分で作ったご飯をもそもそと食べているが、何故か食べるスピードは僕よりも何倍も早い。元々親方は小食だから単に食べる量が少なくてそう思うのかもしれないけど、それでも早すぎるような気がする。
 「なーに人の顔をぼけっと見てやがる。暇が在ったらとっとと食え!」
 何時の間にかお皿まで片付けた親方から、今度は怒鳴り声が飛んできた。
 僕は残り少なくなったパンと目玉焼きとサラダを一気に口の中に押し込んで角砂糖を三つ入れたコーヒーで一気に喉の奥までやってしまうと、胸の辺りでつっかえたそれらを手でドンドン叩いて押し込んでしまいながら、大急ぎでお皿を流しの中の水と親方の分のお皿が入った金盥に突っ込んで、椅子の背凭れに掛けた帽子を頭に被って今一度装備を整える。
 新聞を畳んで古新聞入れに突っ込んだ親方は既に帽子まで被って完璧準備万端、慌しく準備を終えた僕は最後に鞄の中身がちゃんと入っていることを確認して、親方が開けておいてくれた戸から真っ直ぐ僕の相棒の元に走った。