複雑・ファジー小説

Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.12 )
日時: 2012/04/22 23:20
名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)

   第7話 商隊と指導


 翌日、昴たちはエノ村を旅立ち、マニエール共和国南部の国境へと向かっていた。昴もエミも旅は初めてなので、村に来ていた物流の商隊と行動を共にすることにした。商隊は6人編成で商人は2人だ。

「へえ、知識を得るために旅にねえ。」

 柔らかな口調で話すのは中年の女性商人である。揺れるトラックを運転しているのがその夫だ。彼女らは夫婦で商人をしている。

「ええ、田舎から出てきたんで、少しでも世間を知っておこうと思いまして。」

「うん、いいことだね。でも、気をつけなよ。最近は物騒な事が多いからね。」

物騒な事、というのは炎天山周辺のことだろう。ここ最近、アーク帝国領にある炎天山周辺は人外による殺傷事件が増加している。

「はい、できるだけ危険な箇所には近寄らないようにします。」

昴は言われたとおりにする事を誓う。面倒事は御免だし、エミを危険に晒すわけにもいかない。

「それにしても楽しみね、スバル。アーク帝国に行くの。」

「ああ、初めての大都市行きだからな。どんなところなんだ?」

 現在、昴たちが向かっているのはマニエール共和国南部に国境を接するアーク帝国の首都、メリュウスだ。商隊は、街道を通って国境付近の町まで行き、そこで分かれる予定だ。そこからは二人で帝国に入国し、メリュウスを目指す。

「アーク帝国はラキシア大陸有数の先進工業国で、首都圏はこの辺とは比べ物にならない位近代化が進んでいるわ。」

「ふーん。ほんとに都会なんだな。」

説明を聞いた昴は、東京やニューヨークの町並みを思い浮かべた。

「でも、やっぱり郊外の方は自然豊かなのよ。炎天山みたいに大きな山とか、広大な湖なんかもあったり。」

商人の女性が説明を付け加える。
 今まで聞いた情報によれば、この世界では、都市部と郊外では文明差があるのはどこの国もあまり変わらないらしい。例を挙げれば、郊外の一般家庭はガスを用いたコンロや風呂を利用しているが、都市部はIHヒーターや燃料電池などのハイテク機器が一般家庭にも多々あるそうだ。日本で言えば、昭和後期と平成くらいの差だ。地球で言えば、中国やアフリカの一部の国も同じような状況が存在するため、昴はそれを聞いたときもそれほど驚く事はなかった。

「有名なのは、国立図書貯蔵館と帝国騎士団ね。」

「図書貯蔵館は分かるが、騎士団っていうのは何?」

「騎士団は公務員の一種なのよ。害獣の討伐、帝都の衛視、災害派遣が主な仕事。その他にも、式典等での公開演習、音楽隊の演奏、要人の護衛もやるわ。」

「なるほど、公務員か。」

昴の中ではとある近しい組織が浮かんだ。自衛隊である。日本が世界に誇る自衛隊は、世界でも、奪った命より救った命が圧倒的に多い素晴らしい集団だ。戦後政策の象徴であり、国際平和を願う日本国の象徴でもある。騎士団の仕事は自衛隊に近い物があった。

「騎士団は入団試験が厳しい事で有名よ。筆記、実技、面接、そして忠誠心を調べる試験があるの。」

「どんなの?」

「魔力の篭った水晶に手をあてがって、12時間苦痛に耐える。精神的な屈辱と激痛に襲われ続けるわ。入団希望の三分の二はそれでやめてしまうそうよ。」

経験者の話だと、過去のトラウマや、自分が最も恐れる事の脳内再生と共に、全身を電流が流れるような感覚が襲い続けるそうだ。

「それを乗り越えた者は、自らの血で契約書にサインして、晴れて騎士となるわけ。志願者は毎年定員越えなのだそうよ。」

女商人が説明を引き継ぐ。騎士になるのは随分大変なようだ。ただの公務員になるために、軍の特殊部隊の入隊試験のようなことをやらされるのだからすごい職業だ。それでも志願者が後を絶たないというのは、騎士団と言う存在が国民から愛されており、尊敬されているからなのだろう。

「そういや、あなた魔法の使い方をしらないんですって?」

女商人が話題を変えた。昴に興味があるらしい。

「はい。魔力はあるらしいんですけど…」

「そうね、じゃあ簡単な魔法なら教えてあげるわ。」

「お願いします。」

そういって、女商人は右手の人差し指を立て、呟くように短く提唱をする。すると、隣に置いてあった小さな木箱がフワフワと宙に浮かんだ。

「これは比較的初歩の魔法よ。念動力で触らずに物を動かせるわ。」

「何度見ても魔法はすごいな…」

「動かしたい物の形と、それを宙に浮かべる映像をイメージするの。意識を集中させてやれば成功するわ。」

昴は言われたとおりに試してみる。手近にあった木箱の形を記憶し、目をつぶってイメージを投影する。そばにあった木箱は少し揺れてからゆっくり宙に浮いた。

「そうそう。意識を集中して、効果が途切れないようにね。」

成功のようだ。昴はそのままゆっくり木箱を荷台に下ろす。

「それにしても、提唱なしでできるのね。珍しいわ。」

「やっぱり普通は提唱しますか?」

昴は一瞬しまった、と思ったが、自分だけではないのではないかと疑問を口にする。

「イメージ力や想像力が豊かな人は提唱しなくてもできることがあるわ。あなたもその類でしょう。」

どうやら、昴だけが特別なわけではないらしい。

「じゃあ、少しだけ魔導戦闘の事も教えるわ。銃を持っているようだけど、この先必要になることもあるだろうから。」

「そうね。スバル、しっかり聞いておいて。」

エミも賛成と声をあげる。正直、昴には戦闘で魔法を使いこなせるか分からない。銃火器で戦うことを考えていたが、場合によっては銃が使えない状況にも陥るかもしれない。戦闘用魔法も教わった方がいいだろう。

「はい。是非に。」

「じゃあ、まずは防御魔法から。障壁展開について教えるわ。」

それから国境付近の町に着くまで数時間、昴とエミは魔法を教わり、揺れるトラックの荷台で談笑も交え過ごした。
 町には日没頃に到着し、そこで商隊と分かれる。二人は、今宵の宿を探しに夕暮れの町へ繰り出した。