複雑・ファジー小説
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.13 )
- 日時: 2012/04/13 00:44
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
どうも作者です。気付かぬ内に参照回数が100突破!読んでくださった皆様、本当にありがとうございます!これからも更新に尽力致しますので、どうかよろしくお願いします。
追記:第5話一部修正しました。
それでは本編です。
第8話 部屋割りとアーク帝国
国境付近の町、ウルクでは昴とエミが宿を探して歩いていた。商隊の女商人に聞いた話によれば、この近くにギルドの経営する宿場があるらしい。
ちなみに、ギルドというのはこの世界の労働組合のような物で、Workers・Guildというギルドの傘下に各ギルドが存在している。傭兵、狩人、旅人、使用人等様々だ。そんな中の一つ、旅人ギルドが経営しているのが『金盞花亭』だ。
「ここかな。言われた場所はこの辺りだけど…」
昴は目の前にそびえる建物を見上げながらエミに話しかける。
「うん。ここは何度か通った事があるからそうだと思う。」
「じゃあ、とりあえず入るか。」
二人は宿へと足を踏み入れた。店の一階はロビーとフロントで、端っこにある開放された扉からは食堂らしき物が見えた。落ち着いた作りの内装で、三階建て横長の建物である。奥行きもそこそこあるようだ。フロントに居た従業員の男は昴たちを見つけ、お辞儀をする。
「ようこそ金盞花亭へ。ご宿泊でしょうか?お食事でしょうか?」
男は丁寧な言葉遣いで話しかけてきた。
「ええと、宿泊で二人なんだが…」
「畏まりました。お部屋はいかが致しましょう。ご一緒ですか?」
ここにきて昴はハッとした。部屋割りをどうするか決めていなかったのだ。
「あー、やはり二人部屋のほうが安いのかな?」
「左様でございます。部屋を別々に取られますと、二部屋分のお値段となってしまいますので。」
「・・・・・・」
昴は悩む。確かに二人部屋の方が安いだろう。だが、一緒に泊まるのは、PMCの仲間や家族でもない。まだ十代の少女なのだ。無論、昴自身は何もするつもりはないし、しようとも思わない。だが、世の中には世間の目、と言う物がある。成人近い年齢の彼女でも、自分が一緒では周りからの目線が気になるのだ。
「スバル、私は別に一緒でいいよ?」
「え?お、おう。そうか。」
ちらりとエミの方を見たら、エミから助け舟を出してきた。昴は一瞬うろたえるが、疚しい事は何一つ無いため承諾する。
「では、二人部屋でよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。それで頼む。」
「かしこまりました。お客様のお部屋は階段を上がって右4番目のお部屋になります。」
フロント係の男は、手元の端末を操作して部屋の空きを確認した後、昴に告げた。これがキーですと大き目のストラップの付いたルームキーを渡された。
「料金の方ですが、一名様あたり一日銀貨五枚のところ、二人部屋ですので、銀貨七枚と銅貨四十枚となります。」
「えっと、銀貨…」
「いや、待ってエミ。」
昴は鞄をゴソゴソ始めたエミを止め、代わりに昴が銀貨を出す。
「来る途中に少しは仕事したんだ。これは払わせてくれ。」
「で、でもいいの?おじいちゃんから貰った旅費もあるし…」
「いいのいいの。」
昴は、ウルクの町に到着するまでに、商隊の護衛も兼ねていたのだ。実際、道中の人外の排除にも貢献したし、倒した人外の素材や食肉を売買して得たお金が多少ある。いつまでもエミに頼るのは嫌だと思っていた昴は、ここで切り出す事にした。
「宿泊費一日分チャージ完了いたしました。どうぞごゆるりとおくつろぎくださいませ。」
そう言ってフロント係は再度お辞儀をする。
その後、昴とエミは様々な人々でごった返す食堂で夕食を取る。食事代は宿代に含まれているそうだ。食事を済ませると、二人は言われた部屋へと向かった。
「スバル、終わったよ。」
「分かった。」
とりあえず、シャワーでも浴びようと思い立った昴だったが、レディーファーストと言う事で、エミに先に使わせた。
しばらく待っているとエミが脱衣所から顔を出し、声をかけてきた。自分もさっさと済ませてしまおうと、昴も浴室へ向かう。
「私の荷物は?」
「あ、く、クローゼットの中だ。」
「ん、ありがと。」
昴はかなりドキドキしていて、エミの声を聞き逃しそうになる。
(エミ、いい匂いするな…って俺は変態か!)
昴は自分の思考を打ち消すかのように頭をぶんぶんと振る。エミはしっとりと湿って艶々した髪のまま、寝間着姿でうろうろしていた。良く見れば、特徴的な犬耳と尻尾も湿り気を帯びている。
(えぇい、さっさと入ろう。そうしよう。)
昴は逃げるように浴室へと消えたのだった。
物凄い早さでシャワーを浴び、体を洗って出てきた昴にエミは少し驚いたような顔をしていた。
「早かったのね。」
「まあ、いつもそんなに掛からないしな。」
昴はそういって自分のベッドに腰掛けた。立て掛けて置いた銃に目をやるが、エミがいじった形跡はない。昴もエミを信用しているが、念のためだ。
(弾薬の調達をどうするか、だな。この世界にNATO弾なんてあるのか?)
昴の愛銃、M4カービンアサルトライフルは、5.56ミリNATO弾という弾薬を使用する。この世界にも銃火器は存在しているが、地球とは少し違う物が多い。エノ村で退治した旅人や、商隊の他の護衛も銃を持っていた。探せばM4に使える弾薬もあるかもしれない。
「エミ、アーク帝国では武器を売ってる店なんかあるかな?」
「それはちょっと分からないわ。ごめんなさい。」
「いや、分かった。誤らなくていい。」
昴の問いに答える事が出来ず、エミは少しシュンとしてしまう。昴は慌ててエミをフォローする。
「あ、スバル、入国するときの事だけど、おじいちゃ…村長から貰った身分証持ってる?」
「ああ、あるよ。」
身分証と言うのは、戸籍も何も無い昴のためにカーサスが作ってくれた物だ。昴はエノ村の住人、と言う形で登録されている。
「それ、失くさないでね。入国時に必要だから。」
「分かった。気をつけるよ。」
昴は返事をし、アーク帝国に着いてからどうするかをしばし考える。しばらくして、エミを見るとうつらうつらしていた。どうやら疲れが出たのだろう。目もウルウルとしていた。
「エミ、もう寝よう。明日も早いし。」
「んん…分かった…」
エミはむくりと起き上がり、
「ん、おやすみなさい…」
と言って昴の頬にキスをした。
「なっ!?」
昴は突然の出来事に呆然とするが、エミは何事も無かったかのように自分のベッドへと潜り込んだ。
結局、昴はしばらくの間立ち尽くしていたのだった。