複雑・ファジー小説
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.15 )
- 日時: 2012/04/25 00:16
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第10話 飛竜と騎士団
「貴方たち、下がって!!」
近づいて来た女性はロングソードを振りかざして叫ぶ。次いでスモークの煙幕の中から装甲車が出現し、後部のハッチが開いて、人が吐き出される。
「怯むな!いけ、いけ、いけ!!」
大柄な男が叫んでいる。恐らく集団の指揮官なのだろう。
「大丈夫かエミ!?」
昴は、言われたとおりに一旦後退し、エミの様子を確認する。
「コホッ、ケホッ…大丈夫…」
エミはスモークが相当きつかったのか、まだ少しむせ込んでいる。
「一小隊、左翼に展開!二、三小隊はバックアップだ!!」
指揮の怒声が飛び、兵員は指示を確実に実行していた。装甲車の砲塔が火を噴き、兵員達は銃撃や剣撃を繰り返している。だが、ワイバーンも負けてはいない。体制を立て直したワイバーンは、翼を羽ばたかせ、砂埃を舞い上げる。その間にワイバーンは体内の器官から排出される灼熱のブレスを吐き出した。炎にやられた者はいないが、火の勢いで近づけなくなってしまう。
「クラウス!魔導弾をお見舞いしろ!!」
リーダーの男に指示された青年は銃を構え、短く提唱すると発砲した。狙ったのはワイバーンの口元、つまりブレスの発生元だ。着弾すると、水の球体が出現、破裂し、ワイバーンは口から煙を吹かせながら仰け反る。
「今だ!総員かかれ!!」
「おおぉ!!!」
号令に兵員全員が応え、一斉に攻撃を再開する。ワイバーンは翼を振り回して抵抗するが、降り続く鉄の雨に成す術も無い。
「ヘッドクウォーター。エリアC地点、座標23.2、10.5に砲撃を要請!」
「ヘッドクウォーター了解。着弾まで15秒」
「総員退却!砲撃が来るぞ!」
合図を受けて、兵員達は後退する。直後、ワイバーンは爆煙に包まれた。煙が晴れるとそこにはワイバーンが力無く横たわっていた。
「ヘンリー、確認してこい。」
「了解。」
ヘンリーと呼ばれた女性は、昴達に最初に声を掛けた人物だった。ヘンリーは、ワイバーンに近づく。だがその時、ワイバーンは最後の抵抗とばかりに火を吹いた。
「グギャ…ァァァオンッ!」
「!!」
生物の見せる弱弱しい最後の抵抗。しかし、それでも人間を焼き殺すくらいは容易い火力のブレス。刹那、灼熱の業火がヘンリーに迫る。
「危ない!!」
昴は叫ぶより先に魔導弾計4発を撃った。先ほどクラウスが放った魔導弾をイメージし、水属性を3発、貫通力強化を強く念じた物を1発だ。3発の水属性弾が火を打ち消し、次いで貫通属性弾がワイバーンの頭部を貫く。さすがのワイバーンも今度は完全に沈黙した。
「ありがとう。助かったわ。貴方も魔導弾が使えるのね。」
「いえ、体が勝手に動いたもので。」
ヘンリーという女性がお礼を述べる。周囲から他の兵員も集まってきた。
「部下の危機を救って貰った事、感謝する。私はアーク帝国騎士団第一大隊、隊長のグレン・クルセイド少佐だ。」
「神宮寺と言います。スバルが名前です。」
名乗りを受けた昴は、自分も失礼の無いよう名乗り返す。
「ふむ。変わった名前だな。ところで、そちらのお嬢さんは大丈夫かな?」
そういってグレンが指差したのは、昴の胸に顔を埋めているエミである。昴も言われてから、エミの状態を確認した。
「うん…もう大丈夫…」
そう言うとエミは昴から離れた。
「その子、人狼か?スモークはちときつかったか…スマン。」
グレンはエミの犬耳をちらりと見て誤ってきた。
「いえ、おかげで命は助かりました。誤る必要はありません。」
「そうか。して、君たちはツーリスト(旅行者)かな?」
グレンが質問してきた。昴は銃を持ったままなのに気付き、背中に回してから答える。
「そんなところです。この子はエイミア・マギット…エミっていいます。道案内をしてもらってます。」
「にしては、ワイバーン相手によく戦っていたな。常人の身のこなしではないが…」
「本職は傭兵です。」
昴は真実を告げた。しかし、グレンはそうかとだけ言うと部下を呼ぶ。
「ここは危険だ。我々がメリュウスまで送り届けよう。」
「それは助かります。ありがとうございます。」
なんと、目的地まで送ってくれるそうだ。騎士団と一緒であればかなり心強い。
「ヘンリー、お連れしろ。第三車両だ。」
「了解しました。二人ともこっちよ。」
ヘンリーが二人に手招きをする。昴とエミはヘンリーに付いて装甲車の後部に乗り込んだ。中には半分近くに弾薬ケースやその他の物資が積まれていた。多分物資の輸送車なのだろう。席に座ると、ヘンリーと青年が一人乗り込んできた。するとハッチが閉まり、車内は赤ランプの薄明かりだけで照らされる。
「自己紹介がまだだったね。私はヘンリー・アイゼンブルクよ。ヘンリーでいいわ。」
ヘンリーは20歳位で肩まである赤髪が印象的な活発な感じの美人だ。もう一人の男の方も美形で、耳は穂先のように尖っている。
「こっちは私のバディのクラウス・ホロディン。見ての通りエルフよ。無口だけどいい奴なのよ。」
「…ヘンリー、僕は別にいい奴なんかじゃない。」
クラウスといった青年はエルフだそうだ。人間と似た外見で一際目立つのが特徴的な耳だ。彼らエルフは弓が得意で、魔力も高い。視力も良く、さらには美形揃いだ。人間より寿命が長いのも特徴のひとつである。
「いいじゃない。今日も魔導弾で活躍したんだし。」
「…ヘンリーはやっぱり油断してたね。」
「ち、ちょっと気が抜けちゃっただけよ!別に油断したわけじゃ…」
「…それが油断って言うんだよヘンリー。」
ヘンリーとクラウスは二人で話し始めた。こうしてみていると夫婦に見えなくも無い…気がする。すると、無線から声が聞こえた。
「おい、お前ら。夫婦漫才が無線から駄々漏れだぞ。やるなら無線オフにしてやってくれ。」
「そうだリア充ども!独身騎士の敵め!」
「もうさっさと結婚しちゃえよお前ら。」
畳み掛けるように無線からは次々と声がする。ヘンリーは真っ赤になって口をパクパクしているが言葉が出ない。
「あ、あんたたち!好き放題言ってくれるわね!!」
「ヘンリー、三分の一位は事実だと思うぞ。」
「隊長まで!?」
無線からはグレンの声も聞こえる。クラウスはため息をついていた。
一方昴は、そんなやり取りを聞き流しながら、横にある弾薬を眺めていた。なんと、5.56ミリNATO弾に形や大きさがそっくりな物も混ざっていた。
「ここにある弾薬はメリュウスでも買える物かな?」
「…うん。市販しているよ。」
「そうか!良かった。これで弾薬が補充できる。」
昴は、これを聞いて安堵した。昴が今まで戦ってこれたのは、このM4があったからだ。PMCOは仕事柄、マガジンを大量に携行する。VIPの護衛中等に襲撃を受けた場合、標的に雨のように銃弾を浴びせ、釘付けにするためだ。昴も例に漏れず、マガジンは大量に持っていた。空弾倉も捨てずに持っていたため、弾切れを起こさずに済んでいたのだ。だが、それも限界がある。弾薬の補充が出来るのは喜ばしい事だった。
「…ところで魔導弾つかえるんだね。提唱無しは珍しい。」
クラウスが話題を変えた。いつの間にか無線を切ったヘンリーも興味ありげにこっちを見ていた。
「スバルは自然型なんだと思う。初めてのときも提唱なしに無意識にやったんだもの。」
「へえ。才能…なのかしらね?」
「…魔導弾は魔力の有無とイメージ力が重要。」
口々に語り始まる面々。昴もクラウスに質問する。
「クラウスも使ってたな。俺のとは威力が桁違いだったが?」
「…僕はエルフだし、訓練もしたからね。」
クラウスはM14ライフルに似た銃を使用していた。銃身部分は銃剣と一体構造になっていて、銃に槍が付いているような感じだ。
「…気になる?これはガンランス。騎士団で使ってるのは僕位かな。」
クラウスは昴の視線に気付いて説明した。
「へぇ。この世界では剣を使う者も多いのか?」
「ちょ、スバル!?」
エミが慌てて口を挟む。
「この世界って?」 「…この世界?」
昴はしまったと口を押さえた。昴の背中を冷たい汗が一筋伝った。