複雑・ファジー小説
- Re: Another Earth 〜魔法と銃と世界と君と〜 ( No.16 )
- 日時: 2012/04/20 22:29
- 名前: アンゲル (ID: B5unmsnG)
第11話 皇帝と審問
「どういうことだ。今の話は?」
装甲車の車内が静まり返る。昴はどう誤魔化そうか頭をフル回転させた。
「えっと、その…」
「…はっきり答えて欲しい。事と次第によっては、僕らは君を拘束しなければいけない。」
しどろもどろになる昴にクラウスが追い討ちを掛ける。つい口を突いて喋ってしまった。無意識とはいえ、かなり迂闊だった。
「正直に答えて。貴方たちは何者?」
「待て。エミは関係ないんだ。」
「…話してくれる?」
「…分かった。話そう。」
昴は抵抗を諦め、経緯の説明を始めた。
「異世界から来たって…確かに都市伝説では聞いたけど…」
「…信じがたいね。何か証明できる物は?」
説明を聞いたヘンリーとクラウスはそれぞれのリアクションをする。
「特にないな。気が付いたら俺は倒れていて、エミに保護された。それ以前の記憶は前の世界の最後だけ…」
「そう…」
ヘンリーが沈んだ顔をする。
「この事はグレン隊長にも報告するわ。」
「ああ。構わない。それに拒否権も無いんだろう?」
「ごめんなさい。貴方はイレギュラーだけど、罪人ではない。拘束はしないわ。約束する。」
「…帝都に着いたらしばらく待機してもらうことになるだろうけどね。」
「・・・・・・」
ボロが出てしまった以上仕方ない。昴は騎士団に一時的に身を預ける事を了承する。
「スバル…」
隣に座るエミが昴を見上げてくる。瞳は僅かに潤んでいた。
「心配するなエミ。ちょっと時間はかかるかもしんないけど…」
そう言ってエミを納得させる。旅は始まったばかりだというのにこの様だ。昴はため息をついた。
ヘンリーは、携帯端末を取り出し、シークレットコードでグレンにメッセージを送った。しばらくすると、グレンから「現状待機」の文面が送られてきた。ヘンリーは、指示通り帝都まで監視を続けることにする。気が付くと装甲車の揺れはかなり小さくなっていた。
「…揺れが収まったから、帝都付近に入った。」
クラウスが解説する。どうやら舗装された道に入ったようだ。装甲車内には運転席にしか窓が無いため、こういう細かな変化で外の様子を察知する。
「そろそろ着くわ。それとスバル。貴方がいない間のエミちゃんの面倒は騎士団が責任を持って見るので安心して。」
「ああ。頼む。」
どうやら軟禁されるのは回避できそうにない。最悪、事情聴取や監禁状態になるかもしれない。しかしエミの生活は保障してくれるそうなので、悪い事ではないが。
そんな事を考えていると、装甲車の速度がゆっくりになって行き、停車した。ハッチがアラーム音と共に開放され、日が差してくる。昴は眩しさに目を細めるが、すぐに目の前の光景に再び目を見開く。
「ようこそ帝都メリュウスへ。」
ヘンリーが両手を広げて言った。広がっていたのは無数の居住施設、それも三階、四階建て以上の物ばかりだ。中心地点には高層ビルが密集していてその真ん中に大きな城があった。某夢の国にあるような城ではなく、どちらかと言えば神殿おのような造りだ。また、町の全方位は巨大な壁で囲われている。整備された道路や信号機に昴は懐かしさを覚えた。
「さて、悪いけどスバルは連れてくわ。2日位で戻れると思うから心配しないで。」
「分かりました。スバル、待ってるからね!」
「うん。すぐに戻るよ。」
「…じゃあ、こっち。」
ヘンリーとクラウスに連れられて、昴は軍用高機動車に乗り込む。助手席にはグレンの姿もあった。
「話は聞いた。悪いが、デブリーフィングがてら皇帝陛下にも報告させて貰うぞ。」
「はい。」
グレンは威厳のある低い声で語りかけてきた。車は先ほどの城へと向かう。やがて到着すると、昴達は入り口から内部へと入っていく。エントランスはサッカーコート二面分程の広さがあり、天井もかなり高い。シャンデリアなんかもあって、装飾で溢れていた。エントランスを抜け、廊下を真っ直ぐ歩く。しばらくして多数の衛兵が守る部屋の前へと到着した。衛兵はグレンを見るとすばやく敬礼し、近寄ってきた。
「いかが致しましたかグレン少佐。」
「皇帝陛下にご報告がある。お目通り願いたい。」
「了解しました。直ちに。」
衛兵は言うが早いか、もう一度敬礼して部屋に入っていった。
「スバル君とヘンリーは一旦ここにいてくれ。」
グレンはクラウスを連れて部屋に消えた。
護衛で固められた部屋の内部、皇帝の間でグレンとクラウスは肩膝を付き、頭を下げていた。
「面を上げよ。報告を聞こう。」
「はっ。炎天山より涌き出たワイバーン級飛竜種の討伐は無事完了致しました。死者0名、損害軽微であります。」
「良くやった。さすがは精鋭たる騎士団。」
「はっ、ありがたきお言葉。」
ワイバーンというのは、飛竜の名前ではなく総称だ。前足が翼で、腕の無い小型の飛竜は総じてワイバーン級と呼ばれる。ワイバーン級は飛竜種の中でも最下級であり、上位にドラゴン級、最上位にサラマンダー級が存在する。ワイバーンとドラゴンの明確な区別は、腕の有無、全長、鱗の硬度などがある。サラマンダー級とは数百年生きたドラゴンで、桁外れの全長と能力を持つ。小国の軍隊程度なら壊滅させる化け物だ。だが、個体数は圧倒的に少なく、近年はあまり被害報告も出なくなっていた。
「それともう一つ、報告が御座います。」
「何だ。」
「俄かに信じがたい事ですが、異世界からやって来たという者を保護しました。」
「ほう?して、その者は今いるのか?」
「はい。入室をお許し願います。」
「許可する。」
「はっ。ヘンリー!!」
グレンが大声で呼ぶとヘンリーが昴を連れて入ってきた。グレンの後ろに肩膝を付き、敬意を示す。昴はどうして良いか分からず、とりあえず深くお辞儀をする。
「その方が異世界から参ったという者か?名を名乗れ。」
「はい。神宮寺昴と申します。神宮寺が姓、スバルが名前です。」
「そうか。で…あー…」
皇帝が言葉に詰まった。かと思うと…
「あー、硬っ苦しいのはもういい。楽にせい。」
などと言ってくつろぎ始めた。なんとも驚きの展開に緊張していた昴は呆気に取られる。回りを見るが、誰も驚いた様子は無いため、いつものことなのだろうか?
「は、はあ…」
「グレン、お前はどう思う?」
「なんとも言えんな。事例としては聞いた事くらいはあるが。」
「そうだな。アカデミーの連中にでも洗わせるとしよう。」
ちなみにアカデミーと言うのはこの国の学会の事である。
「今後の扱いについては?」
「それは後で伝えよう。それより今はスバルとやらと話がしたい。」
それから昴は数十分かけて、今までの経緯を再度話した。
「うーむ、なんとも信じ難いが、今こうしてスバルが存在してるしの。」
「自分でも未だに信じ切れません。」
「まあ、悪いようにはせん。身体検査と軽い審問だけ受けて貰う。そしたら帰っていいぞ。」
「はい。助かります。」
なんとも皇帝らしからぬ物言いだが、不思議と威厳や風格が無いわけではなかった。
「…それで話を大きく変えるが、ヘンリー、クラウス。お前ら進展は無いのか?」
「まさかここに来て陛下にまでいじられるとは…」
「…陛下、いい加減にして欲しい。」
ニヤニヤしながら聞いてくる皇帝にヘンリーとクラウスは反論する。
「いや、なに。年を取ると若いもんの恋路なんかが気になってな。手近にいたものでつい…」
「まったく、お前という奴は。」
悪戯を咎められた子供のように白状する皇帝。なんだか上下関係もあやふやになってきた気がする。するとそこへ高らかな声が響いた。
「おや、良いではありませんかグレン。若者を見守る事も大人の仕事でしてよ。」
「おお、お前か。どうしたのだ?」
現れたのは、格好から推察すると王妃であろう。歳もそれなりに行っていそうだが、そんな事は微塵も感じさせない魅力的な女性だった。
「異世界からの客人が来てるそうじゃないあなた。私も挨拶しておきたくて。」
鈴を転がすような綺麗な声で話す王妃。昴はとりあえず会釈する。
「おお、そういえば名乗らせておいて、こちらが名乗っていなかったな。我が名はギレル・アルマーシ。こっちは妻のエレーナだ。」
「神宮寺昴です。神宮寺が姓、スバルが名前です。」
昴は先ほど皇帝にしたような自己紹介をエレーナにもした。
「よろしくねスバルさん。」
エレーナはニコリと微笑んでスバルに挨拶した。
結局、その後はギレルとグレンが昔話や武勇伝に花を咲かせたり、ヘンリーとクラウスをエレーナが質問攻めにしたり、昴に地球の事を聞いたりしていた。不安は消え去り、皇帝との面会は幕を閉じた。