複雑・ファジー小説
- Re: 水車の廻る刹那に【出会いは妖の杜で】 ( No.13 )
- 日時: 2012/04/01 11:09
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
「そいぎあ、改めてはじめまして。あっちは私のペットの『カイ君』」
そう言った瞬間、白い犬がピョンと飛び、蛍の後頭部に足蹴りを喰らわせた!!
「おわ!!」
勢いがあったせいで、蛍は思いっきり倒れた。犬は空中で一回転して、綺麗に着地する。
「ちょ、痛ッ!!」
「痛くしたから当たり前だ!!」
蛍が起き上がって言うと、白い犬が吠えるように言った。
「私はヤマトタケルノミコトだぞ!? それぐらい覚えんかい!!」
え?
今……この犬何て言った?
「言えるかそぎゃん長ったらしか名前!! もう『ヤマちゃん』か『タケちゃん』でよか!!」
「良くねえええええええ!!!」
蛍たちの喧嘩を余所に、俺は必死に頭を動かす。
えっと……『ヤマトタケルノミコト』って、あの古事記とか日本書紀とかに出てくる神様?
女装してクマソを倒したという、あのヤマトタケルノミコト?
そこまで来た時、俺は思わず思考停止しそうになった。
「……どうしたの? 天」
ヤマトタケルノミコトの顔をつねりながら、蛍は俺に聞いてきた。
「そ、そんなことして祟られないのかッ……!?」
「へッ?」
俺の言葉に、首をかしげる蛍とヤマトタケルノミコト。するとヤマトタケルノミコトが気づいたように言った。
「フン。どうやら天とやらは私を恐れているようだな」
その言葉に、蛍はああ、と頷き、笑う。
「平気ったい。ヤマちゃんは口は悪いし態度もデカイけど、根は優しい神様と」
「無駄口が多いぞ、蛍」
「え、本当の事やろ」
なんて穏やかな会話をするヤマちゃんと蛍。その様子に、俺はほっとした。——どうやら、祟られはしないようだ。
「ねえ、あーた時間は空いてる?」
ふと、蛍が思いついた様に俺に訊ねる。
「え、ああ。晩ご飯までなら……」
するととびっきりの笑顔で、蛍は言った。
「なら、この村ば探検してみなか!?」
「えっ……」
俺は思わず声を漏らしてしまった。
「あ、ダメだった?」
「いや、ちょっとビックリして……」
心配を浮かべた蛍の顔を見て、俺は即座に否定する。すると蛍は俺の手を取って走った。
「そいぎ、行こう!!」
「え、ちょッ」
どもる俺にお構いなしに、走る蛍。蛍の手から伝わる体温が、とても居心地が良かった。
——そう、初めてだったんだ。
こんな風に、普通に話してくれた同じ年の子は、初めてだったんだ。
◆
『おい、あいつが来たぞ』
『ホントだ。からかってやろうぜ』
クスクスと聞こえる声。その時、ああまたかと思った。
瞳の色が金色だった俺を、何時も施設の子は蔑んでいて。俺を狙う妖も居たから、俺の周りには怪異現象が良く起きてしまって。
最初、いじめっ子を注意していた施設の先生も、やがて俺を怖がり、蔑むようになった。
『ねえ、あの子またガラス割って……』
『まあ……この生活の何処に不満があるのかしら?』
『でもガラスの破片は内側にあったのでしょう? どうしてなのかしら……』
ヒソヒソと、聞こえる大人たちの会話。
ココに居てはいけないと言われたようで、でも逃げ場がなくて、辛かったし悲しかった。けれど、まだ子供の俺は自分を自分で養うほどの器量はなくて、結局施設しか居場所はないのだ。
そして、あの事件が起きた——。
「……し、天!!」
「はッ!!」
「どうしたと? 顔色悪いよ?」
蛍の声に、俺は何でもないと返す。
今は丁度水車の目の前に居た。ここは水車の里といわれるほどらしい。
水車の廻る音や、水の流れの音を聞いて、やっと心を落ち着かせることが出来た。
全く、過去に引きずられるなんて。自嘲気に俺は思った。
その時、蛍の顔色が変わった。
「……どうしたんだ?」
「……来る」
何が、と訊ねる前に、ヤマちゃんの体がブルリと震えた。とたん、体に雲のようなものに包まれ、晴れるとヤマちゃんは犬の姿から青年の姿に変わっていた。
それを見た途端、ああこれが本性なんだなと混乱せずに思う。
蛍はヤマちゃんが変化した途端、今来た道を引き返した。
