複雑・ファジー小説
- Re: 水車の廻る刹那に【出会いは妖の杜で パート2】 ( No.18 )
- 日時: 2012/04/02 17:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
「……どうしたんだ?」
「……来る」
何が、と訊ねる前に、ヤマちゃんの体がブルリと震えた。とたん、体に雲のようなものに包まれ、晴れるとヤマちゃんは犬の姿から青年の姿に変わっていた。
それを見た途端、ああこれが本性なんだなと混乱せずに思う。
蛍はヤマちゃんが変化した途端、今来た道を引き返した。
「お、オイ!! 蛍!!」
「ヤマちゃんの傍ば離れんでね!! 絶対!!」
俺の方には振り向かず、蛍は一言伝えて走った。
「な、なんだ……? 何が起こってるんだ? ヤマちゃん」
「だからその名で呼ぶな!! ……今蛍は、ちょいと悪質な妖を退治にしにいっている。それだけだ」
それだけだ、って……!!
妖が、ただの少女に叶うわけ無いだろ!!
「おい、何処行くつもりだ!!」
追いかけようとした時、ヤマちゃんが俺を止めた。
「アンタ何考えてるんだ!! たかが人で、女の子に妖を退治することは不可能だろう!!」
「じゃあお前は何とかなるのか!!」
ヤマちゃんが声を荒げるが、不思議と全く怖くはなかった。
「俺は半妖だ!! 半分しか龍の血を引いていないけれど、力になれる!!」
そこまで言って、どうしてだろう、と思った。
俺は龍であることを軽蔑していた。それはあの時の事件がきっかけだったけれど——とにかく、俺は妖である俺を嫌っていたはずなのだ。
けれど、今はとても満足している。
ヤマちゃんの瞳が、大きく開いた。そして、俺の頬に手をそえる。
「……お前、貴船の神の息子か」
「貴船の神?」
俺が聞くと、貴船の神を知らないのか、と言われた。
「この国で五本の指に数えられる神だ。淤加美神、と呼ばれている」
そこまで聞いて、俺は本で読んだ事を思い出した。
昔、伊邪那岐(イザナギ)という神と、伊邪那美(イザナミ)という女神がいた。二人は何にも無い下界へ、天の橋から矛で混沌をかき混ぜ島を作った。そこを中心とし、沢山の国を産んだ。それが国産みという。
そして国産みが終わると、今度は沢山の神を産んだ。これを神産みという。
だが、それは中断となった。火の神加具土(カグツチ)を産んだ時、火傷が元で伊邪那美は死んでしまったのだ。
怒り悲しみで狂ってしまった伊邪那岐は、加具土を殺してしまう。その際、飛び散った血から生まれたのが淤加美神と言われている。
そんな神が、俺の母親……?
嘘だとは思わなかった。ただ、すんなりと受けいることが出来た。
「確か淤加美神は人間の男と結ばれて高天原を追放され……今の淤加美神は、その前の淤加美神の妹だと言われているが……お前は、自分の母親が何者なのか知らなかったのか?」
「……俺を産む為に、母は死んだらしい。俺は全く覚えていない」
俺が告げると、ヤマちゃんは、そうか、と短く答えた。
