複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【出会いは妖の杜で パート3】 ( No.23 )
日時: 2012/04/03 13:43
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)



「……だったら使えるかもしれないな、コレを」


 そう言って、ヤマちゃんは腰にさしていた刀をとる。


「これは……?」
「ほら、さっさと抜け。じゃないと……死ぬぞ」
「へ?」




『おお、上手そうなガキだああああああああああああ!!』





 渡された途端、後ろから妖が叫びながら襲いかかって来た。
 振り向くと、二十メートルほどの大百足の妖が、気色悪く足を動かす。


「ええええええええええええええええええええええ!?」
「どうやら、入り込んだのは二匹らしいな。ほら、さっさと刀を抜け」


 恐怖と驚きの勢いのあまり鞘を抜くと、鞘は飛んで行ってしまった。


「あ」
「バカ!! 鞘を捨てる奴が何処に居る!!」


 ヤマちゃんの声が聞こえたが、これは事故だ、と心の中で主張する。
 だが、幸か不幸か飛んで行った鞘は見事に大百足の腹に直撃!!


『ぐ、グハアア!!』


 そして大百足は撃沈した!! ドサアア!! と、大音量がしたと同時に、土埃が盛大に舞った。
 ケホケホ、とせき込む。


「おまッ……すごいな」
 

 隣でヤマちゃんが無表情に感心している。
 俺だって十分驚いているよ。こんなにあっさり倒れるなんて。





『うおおおおおおおおおおお!! まてぇぇぇぇぇぇ!!』
「待てと言われて待つアホおるかあああああ!!」





 叫び声が聞こえた。——……何か漫才のように聞こえたのは気のせいだ、うん。
 振り向くと後ろで蜘蛛のような妖が蛍を追いかけまわしている。
 俺は加勢しようと飛び出したが、ヤマちゃんに阻止された。


「放せ、早くしないと蛍がッ!!」


 肩に入れられた力を振り放そうとするが、非力な俺の力じゃどうにもならない。
 ヤマちゃんは相変わらず無表情で——いや、少しだけ笑いを滲ませていった。


「平気だ。あいつはただの巫女ではない」


『食わせろォォォォォォォ、お前の生き肝ォォォォォォォォ!!』


 妖の声が辺り一面に響く。すると、今まで逃げていた蛍は妖の方へ振り向き、足を止めた。


「!?」


 何しているんだ、あいつは!! 逃げないと、食われるぞ!!
 だが、俺の必死の叫びに反し、蛍は笑っていた。

 ——え?
 その時俺は、信じられない光景を見たのだ。







「『とまれ』」








 蛍が言葉を紡ぐと、蜘蛛の妖はピタリと止まった。まるで、何かの糸に引っ掛かって動けないように。


『くッ……!! 貴様!!』
「『天津祝詞の太祝詞事を宣れ。……』」


 その後の言葉は良く聞こえなかった。否、聞こえていたんだと思う。思うが、まるで右の耳から左の耳へ聞き流すようだ。


「……あれは天津祝詞の太祝詞事だよ。まだお前には聞こえないんだと思う。……それだけ強い言霊なのさ」


 ヤマちゃんが静かに答えた。
 言霊とは、その名の通り言葉に力が宿っていることだ。

 蛍の顔を見ると、微笑んでいるように見える。それは、楽しいとか嬉しいとかの笑みではなくて——寂しい人間に、必死に手を伸ばしている笑みだ。
 少しずつ、妖の邪気が穏やかになっていく。


「……彼女は、高天原に選ばれた、『言霊師』だ」


 ヤマちゃんの言葉と同時に、妖の邪気が全て清められた。そして、ストン、と倒れる。どうやら眠っているだけで、外傷も見られない。
 あっけなくあの大物の妖を倒した蛍の姿を、オレは素直に凄いと思った。