複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【出会いは妖の杜で パート4】 ( No.26 )
日時: 2012/04/04 15:17
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

 蛍はオレ達の方へ走る。


「良かった、無事だったとね!!」


 そう言って笑いながら駆けだしてくる蛍。


「……どうした? 顔色悪いぞ?」


 オレの様子に気づいたのか、ヤマちゃんが声をかけて来た。


「……もしかしてお前、何か見えたのか?」


 その言葉にオレは俯いて黙る。その時だった。
 さっき鞘が丁度良く当たって気絶していた妖が、気がついて蛍を後ろから襲ってきたのだ。


「蛍ッ!! 危ない!!」


 ヤマちゃんが叫んだ。だが、蛍が振り向くより先に、妖がすぐ傍までやってきている。

















 危ない!!













『……ガッ!!』
「……天ッ!?」


 妖のうめく声とヤマちゃんの声が、遠くから聞こえるかのように感じた。



 ふと、昔の自分が頭の中を遮ったんだ。



 気づくと、オレはいつの間にか剣を振るって、蛍の体を守るように抱いていた。
 あんなに大きい妖と戦っているのに、オレは酷く冷静で、「ああ、これが神の力なんだな」と思った。偉大なる、母の血の影響なんだな、と。
 剣で斬ったのに、妖には外傷はなかった。代わりに、オレの周りが真っ白になった。かと思いきや、脳裏に別の光景が流れ込んできた。







——寂しい。寂しいよぉ……。

 妖の声がした。その時、これは妖の記憶なのだと判った。
 廃寺の軒下で、小さな百足が嘆いていた。寺に埋められていた死体の念も含まれて、百足は意志を持てる妖となった。
どうやらその寺は人里から遠いようで、百足はたった一匹で過ごしていたようだ。
寺には結界が張られてあって、百足は人里に降りることが出来なかった。

——誰でもいいから、話したいよお……。人里に降りれば、私を好きになってくれる人が居るだろうか。力をつければここから出られるだろうか……。

 その記憶を覗いて、ああ、そうかと思った。
 一人で居るのは、とても寂しくて、耐えきれるものではなくて。
 それは、妖でも人でも同じ事で——……。





 その後、妖はバタリと倒れた。蛍の『言霊』と同じように、眠っているだけだった。
その後はっと気付いて、蛍にたずねる。


「大丈夫か?」
「うん、平気」


 蛍はそういって笑った。が、まだ顔色が戻っていない。
 そうだよなあ、あんな妖を、しかも女の子で鎮めるなんて、大変だよなあ。
 蛍を抱きながら座ると、ヤマちゃんが駆け付けた。


「……どうやら寂しい心に隙間を突かれ、操られていただけのようだ。目を覚ましたら、正気に戻る」
「そうか、良かった」


 あの記憶を見て、想った事がある。……もしかしたら、俺もああなっていたのかもしれない、と。
 だから、聞いてほっとした。……妖は好きにはなれないけれど、でもやっぱり同じなんだなあ、って思えた。

 同じ……。
 俺も、これからも『独り』で生きて行くのだろうか。たった、独りで……。


「……で、何時までその格好でいるつもりだ?」


 ヤマちゃんの言葉に、俺は今どんな体勢でいるか気づく。
 俺は蛍の腰をしっかり持っていて、蛍は俺の胸にしがみついていて、つまりこれは、傍から見たら絶対誤解される格好だ。


「ご、ごめん!!」


 俺はすぐ離れる。
顔が熱い。蛍の顔に目線を合わせることが出来なくて、俺は顔を逸らした。


「……あの妖たち、きっと寂しかったんたい」


 蛍がポツリ、と呟く。俺の反面、蛍はとても落ち着いていた。

 あれ? 照れてたの俺だけ? そう思うと少し虚しい。
 そんな俺に構わず、蛍は眠っている妖たちへ駆け寄り、大きな妖の体を、壊れモノを扱うかのように優しく撫でた。


「……寂しいて思うと、余裕が無くなって周りが見えんくなってしまう。そうすると、自分ば守るために人ば傷つけてしまう。……自分が、他人ば傷つけとることも知らずに。孤独ほど恐ろしいものはなかよ」


 そう言って、俺の方へ振り向き、笑った。


「私、順子さんから天のことば聞いて、天と話したかったと」
「え……?」
「……私もさ、両親居なくて順子さんに色々迷惑掛けたりしてるけど、やっぱ一人じゃ何にも出来なかんだよね。ヤマちゃんも居なかったから、きっと心が折れとったと思う。
 だからさ……何時でも頼って欲しいと思っとると」


 その時、俺の心の中で風が吹いたような気がした。
 夕陽に照らされて、蛍の顔は儚くも強いような笑顔だった。

「私も力は微力だけど、無力じゃなか。そいけん、どぎゃんピンチだろうと相談してほしいたい。……我慢なんてしなくていい。一人で耐えなくていいとよ」


 そう言って、蛍は近づいて、俺の頭を撫でた。
 暖かくて、こみあげるものがあった。耐えきれず、それは俺の頬を伝って零れ落ちる。
 その様子を見て、蛍が俺の頭を優しく抱いた。
 少し照れくさかったけれど、何故か心地よかったので振り払う事はしなかった。
 寂しかった心に、一つ灯が灯った気がした。








 そうか。だから求めてしまうんだ。

 寂しいと思うのも、愛しいと思ってしまうのも。
 そんな気持が存在するから、求めてしまうんだ。