複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【そこは変人の巣窟だった パート1】 ( No.29 )
日時: 2012/04/07 12:00
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)



「ここが、貴方の教室よ」


 優しく微笑みながら、俺の担任——鬼鎌雛菊先生がドアを開ける。蛍と同じくらいに綺麗な髪をシュシュでまとめ、いかにも「若い先生」って感じだ。名字は恐ろしいが、優しい笑顔にはそんな様子は見られない。
 ガラ、と戸を開ける。


「きゃああああああ!!」


 その時、ガッシャーン! と、(水入りの)タライが鬼鎌先生の頭の上に直撃した。


「先生ェェェェェェェェ!!?」


 俺は思わず叫んだ。同時に、教室の隅から、「あ、やばい」という声が聞こえる。
 先生は無言で頭の上にあったタライを床に置き、ゆっくりと立ち上がった。髪は濡れた為、前髪が顔にピッタリとくっついている。まるで貞子状態だ。


「……誰ですか? こんな罠を仕掛けたのは。怒らないから正直に答えてください」


 ボソボソと言うが、その言葉ははっきりと聞こえた。
 ってか先生、怒らないって嘘でしょ。後ろが滅茶苦茶黒く歪んでいるんですけれど。
——なんて口出しできるほど、俺は強くはない。言ったらこの先生、絶対怒る。


「先生、怒らないって嘘でしょ? 後ろが破滅的にヤバイですよ?」


 窓際の列に座っていた、男子生徒がへらっ、と笑って言った。
 ——っておい!! 言うなよ、ソレ!! 空気読んで!!


「エフ……エフ……」

「せ、先生……?」

















「上等だあコラァ!! いっぺん三途の川に行ってこいやあああ!!」


 ——そう言った途端、鬼鎌先生はその名の通り鬼となった。

                              ◆


「……つ、疲れた……」


 あの後、鬼鎌先生は鬼の形相になり、鋭い大鎌を教室で振り回し暴走した。その後通りすがりの先生が鬼だと勘違いし、得物を振り回したり、他の先生方がタライなどの罠に引っ掛かったりと、もう大変だった。
 学級崩壊どころの騒ぎじゃない。銀●先生三年Z組だよ、こりゃ。
 まあ色々あったが、何とか放課後の時間になり、下校する。


「へー!! じゃあ、天くんって都会に住んでいたんだぁー!! ねね、都会ってどんなトコ?」
「んー。結構ビルが立ってて、人ゴミも多いぞ」


 隣で明るく気さくに聞くのは同じクラスの四月一日雛(わたぬきひいな)だ。他の皆からは真ん中の『い』を抜かせて、『ヒナ』と呼ばれている。茶髪のセミロングで、女の子らしい少女だ。


「なあなあ、東京からきたって言ってたよな? 東京タワーってどれくらい高い?」


 無茶な質問を俺に問うのは宮副勇気。皆からは『勇気』と呼ばれる。ちなみに、雛菊先生に余計なことを言ったのもこいつの仕業だ。基本バカで、とてもドケチ。酷い言われようだが、本当の事だもん。
 何と俺と同じ妖。川天狗という妖らしい。


「ちょっと無理な質問だな、勇気。広報では、三三三メートルって言われているけど、実際は三三二.六らしいし……」
「塔脚の間隔は?」
「え、確か……八八メートルだったハズ」
「ということは……総工費は約三十億円ってとこか」


 どこをどうやって計算したんだよっ!? ……という突っ込みは無しだ。こいつはホントに、金のことになると詳しいのだから。


「……も、……もったいなか〜、たかが電波でそがん大金詰め込むなんて〜……!」


 そう言って血の涙を流す勇気。怖い、ある意味怖い。というか、もう五十年ほど前のことなんだから、今更泣いたって仕方がないような……。


「あれ? 天君って道こっちなの?」


 ヒナがふと気付いた様に訊ねる。


「ああ。俺、居候なんだ。両親居なくてサ」


 あっさりと言うと、ヒナは顔を少し暗くした。勇気も、気まずそうな顔している。


「……ごめん、気ば悪くさせちゃった?」
「あ、いいよ。どうせ判ることだったし」


 明るく俺が言うと、勇気は暗い雰囲気を変えるように口を開いた。