複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【感謝記念!】 ( No.45 )
日時: 2012/04/19 17:40
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)


第三話 千年桜


 はい、読者の皆さま。もう春ですね。
 日本の春と言えば、桜。桜と言えば、花見。——というわけで、ただ今俺たちは境内で花見をしています。

 淡いピンク色の花びらがチラホラと舞い、耳を澄ますとミツバチの羽音が聞こえてくる。
 境内から出てみると、神社に植えられた桜の色と、周りに咲いた菜の花の色の組み合わせが、とても良い。
ああ、もう春なんだなあと想った。


「今日、晴れてよかったですね!!」


 紗織がニコニコと笑いながらシーツ・・・・・・というかレッドカーペットじゃん。を広げる。
 いやあ、初めて見たな、レッドカーペット。というか、うちにあったんだなレッドカーペット。


「今日はね、私も沢山作ったとよ!!」


 蛍が嬉しそうに言った。かなり浮かれている。まあ、俺もいつも以上に浮かれているんだが。
 ——施設に居たときは、こんな風に、心躍らすことは出来なかった。そもそもそんな余裕も無かったしな。

 俺達はカーペットの上に座り込み、早速だが弁当を突くことにした。


「あ、これ稲荷寿司か!?」


 重箱の中に、大好物の稲荷寿司を発見。


「うん、そうだけど。何で?」
「俺の知っている稲荷寿司は、四角で何も入っていないから」


 この稲荷寿司は、三角で五目寿司のように具が入っている。どうやら、関東と関西では違うようだ。
・・・・・・まあ、施設に居たころは稲荷寿司なんてそうそう食えるもんじゃなかったけれど。
 一口で稲荷寿司を食べる。メッチャ美味い。酢のいい味と、生姜の香りが出ている。


「あ、順子さん特製の唐揚だ!!」


 蛍がひょい、と唐揚を掻っ攫った。
 順子さんは、店をやっている。メニューには、唐揚もあって、順子さんの唐揚は絶品なのだ。
 カリッ、と皮のいい音が鳴り、中はジューシーで柔らかい。


「美味し〜!!」


 蛍の満面の笑みを見て、順子さんは嬉しそうに、「そう言われると、本当に嬉か!」と頬を染めた。
 順子さんて、あれだよな。おばさんっていう年齢だけど、とっても乙女だよな。
 何て思っていると、順子さんは黒い笑みで、


「天君、今失礼なこと・・・・・・思った?」


と、後ろに鬼のようなものが見えたため、「いえ、思ってません」と土下座して謝った。
 怖い、順子さん。読心術が使えるのかッ!?

 そういえば、と俺は思い出す。
 昔、順子さんが学生時代だった頃。この町の暴走族のヘッドとして、暴れていたと。
 その武勇伝は数知れず。生徒に危害を加える教師が居たら、小銭を入れた「グー」と啖呵でボコボコにし、妖が弱い妖や人に危害を加えるものなら、足技で倒したりと、とにかくとてつもない歴史を持っている。












 ・・・・・・今後、順子さんの前では気をつけよう。




「酌だ〜、酌をしろぉ〜」


 ヤマちゃんは犬の姿で酔っている。
どうしよう。神の威厳が感じられない。
 というか、皆・・・・・・花を愛でようとは思ってないよな? あれか、「花より団子」か。


「綺麗だな、天」


 ポツリ、と静かだが深みのある声が響いた。
 安藤昭さん。順子さんの旦那さんだ。
 四十近いとは思えないほどの美男で、それでいて渋さと貫禄も出ている。
 カッコいい。この一言に尽きるな。


「そうですね。今まで花見なんてしなかったけれど・・・・・・結構眩しいんですね」
「桜は淡いピンク色だが、白のほうが目立つ。白は光を全て反射するからな。そのせいだろう」


 ああ、カッコいい。
 回りがああなので、余計カッコよく見える。これは良いことなのか、悪いことなのか・・・・・・。


「ここの生活は、慣れたかい?」


 静かだが、深みのある声。とても安心できて、素の自分を出すことができる。


「はい! 学校は結構トンチンカンですが、皆優しくて、暖かくて。とても、楽しいです!」
「そうか。それは良かった」


 そう言って、ニコリと微笑んだ。
 ああ、この人は、男の人なのに、何て柔らかい笑みを出せるんだろう。カッコいいぜ! 俺は、惚れ惚れした。






































































『・・・・・・けて』



























「————え?」


 皆がそれぞれにはしゃいでいる時、風の中に微かな声が響いたのを、俺は知らなかった。
 聞いていたのは、唯一人、蛍だけ。




 その声とともに、ブワアアアと、雪のように桜の花びらが、吹雪いていた。