複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【千年桜 パート5更新!】 ( No.64 )
日時: 2012/05/01 21:48
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)



「蛍。ここは、勇気たちを置いていこう」


 俺は思わず言った。


「でも!」
「勇気たちは、神隠しなんかされない。そうだろ?」


 俺は勇気の方を見る。そして、挑発するように、ニヤリ、と笑った。
 ニヤリ、と勇気も笑い返した。


「おう。神隠しだが亡霊だがわらべ歌なんかしらねえが、こんな卑怯な奴に攫われるなんてありえねえよ」
「それこそ勇気だな。・・・・・・だってさ、蛍」


 俺が言うと、とうとう蛍は折れた。


「・・・・・・判ったと。でも、学校からは離れたほうがいいけん」
「ああ。・・・・・・蛍たちも、気をつけろよ」
「お生憎様。こっちには、神代からの由緒正しい神が居ると」


 蛍は笑った。しかし、すぐに真剣な顔になって、勇気に背を向けた。
 ヤマちゃんも、蛍が進む先——植物園へ足を運ぶ。


「んじゃ!」


 それだけを伝えて、俺も、慌てて植物園へ足を踏み込んだ。













































 踏み込んだ矢先、俺達はフラ、と倒れそうになった。

 踏み込んだ途端、あまりの暑さに汗が噴出す。
 その原因は、踏み込む前まで見えなかった、黒く赤い血のような炎。
 その代わり、あんなにもあった木は燃えつくされ、一本も生えていない!
 その中でひょうたん池の回りでもがき苦しむ真っ黒の人たち。
 その人たちは、俺達に気付いた途端、物凄い剣幕で足や手にすがり付いてきた。




『水ッ! 水! 水をくれ!』
『ああ、水、水!』
『喉が渇いた、お水をくれぇぇぇ!!』





 その人たちの手と言ったら、とんでもなく冷たいこと!
ああヒナはここに入らなくて良かったな、と安堵した。


「ちょ、水ならそこにあるじゃないか!」


 俺がひょうたん池を指した。しかし、亡霊たちは目も向けない。
「ムダとよ!」混乱する俺を、蛍が制した。
 轟々と燃えている音に負けないよう、蛍は声を張り上げる。


「この人たちには、あのひょうたん池は当時からあったもの。
 あの沢山入った水さえも、自分たちを焼き尽くした炎にしか見えないと!」
「それって、どういうことだよ!?」
「この状態で、全部説明するのは苦しいから、かいつまんで話すけん!
 昔ここには、爆弾が放り投げられていた。何故なら、ここが元は防空壕だったから!」


 蛍は松があった木の下を指す。そこには、ポッカリと穴があった。


「昔、ここの地形はかなり攻めるのが不利だった。爆発しても、この穴に潜れば安全だったから! けれど、当時のここは酷かったから、防空壕の中で何日も過ごすことだってざらにあったと! そこで暮らせるように、ひょうたん池から水を引いていて水を溜めていた。
だから・・・・・・・」


 煙のせいなのか、当時の残虐さを想像したのか、蛍の瞳には涙がいっぱい溢れていた。



















































































「——だから! 敵は爆弾効果的に発揮するために、ひょうたん池にいっぱい油を注いだ!」
「なッ・・・・・・!」


 俺は思わず絶句した。
 船の事故で油が注ぎ、事故の引火で海が燃える映像をニュースで見たことがある。だから、想像は容易に出来た。
 穴の中で炎が燃えたら、それこそ鍋じゃないか!


「どうすればいいんだ!? どうすればッ・・・・・・!」
「かなり強い念を残しているけん、成仏は早くても三年ぐらいはかかるけん!」
「ええ!?」


 そんな! そんなに時間がかかるのかよ!?


「でも、この場しのぎなら何とかなる!
 恐らく、この亡霊たちの力を高める増幅器のようなモノがあるはず!」


 亡霊たちを蹴散らしているヤマちゃんの声に、俺は驚いた。


「え!? こうなっているのは、わらべ歌のせいじゃないのか!?」
「それもある。しかし、歌だけではこんなことにはならん。手順を踏まなければ、ただの歌だ。
 恐らく黒幕が、あらかじめ歌だけでこうなるように仕向けた! それを解くことができれば・・・・・・!」

「防空壕!」蛍が叫んだ。

「この人たちは、防空壕の中で死んだ! でも、今はここから出ている!
 念を強く持っている場所から離れているということは、恐らく防空壕の中がこの亡霊たちを鎮める役割を持っていて、何らかの強い力でそこを追い出された!」
「な、何だか良く判らないけど、防空壕だな!!」


 俺は、さっと行動に出た。
 かわいそうだが、縋り付く亡霊たちを拳で蹴散らして、防空壕の中へ入る。