複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【千年桜 パート6更新!】 ( No.65 )
日時: 2012/05/06 13:01
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

 中に入ると、案外広かった。けれど、中は炎だ。
 さっきのと比べ物にならないほど熱く、もう肌がピリピリした。
 うっかり炎を触ってしまう。手のひらを見ると、かなり酷い火傷が出来ていた。



















 怖い。



















 とっさに想った。
 初めて、『死』という恐怖に苛まれた。
 このまま突っ込んでは、死んでしまうんじゃないだろうか。炎で焼き尽くされて、熱いのと痛いのに魘されながら。



 逃げたい。




 このまま、逃げてしまいたい。

 そしたら、死ぬことは無いだろう。苦しむ可能性も、ゼロに近づく。
































 ふと、その時。
 一生懸命な姿の蛍が脳裏に浮んだ。


























































「・・・・・・——逃げて、何になるんだよ」


 ペシン、と俺は頬を叩いた。
 逃げたら、苦しむのも死ぬのも無い。でもそれは、皆を見捨てて逃げるという事。

 そしたら・・・・・・一生後悔して、俺は自分を責め続けるだろう。
 その覚悟は、俺にあるのか?
 楽しくて、幸せな日常を手放すことが、俺に出来るのか?


 炎で燃えてしまうのは、蛍だって同じだ。
 俺は半分龍の血を引いている。けれど、蛍は術師とはいえ人間なのだ。

 それも、十四の女の子。



「守るって・・・・・・自分で決めたじゃないか・・・・・・!」


 大切なモノを守るって。この日常を、守るって。
 何があっても、大切な人を、居場所を守るって。
 蛍を、守るって。












































































 そう、自分で決めたじゃないか——————ッ!!






 そう強く想った刹那。
 奥から金色の炎が出てきた。




「えッ・・・・・・」


 呆然としていると、血のような炎は金色の炎に食いつかされていく。
 完全に食いつかされた途端、あっというまに温度が下がった。
 金色の炎は、血のような炎を食い尽くしたあと、すぐに消える。


 俺はパチクリと目を瞬かせた。
 一体、なにが起こったんだ!?





『——礼を言うぞ。童よ』




 穴の奥の方から、この世のものとは思えない、美しい女の人の声が響いた。
 一体誰が居るんだ? しかも、『礼』って——?







『童のお陰で、私はここから出ることが出来た』



 その女の人の姿を確かめようとした途端。

 俺は、何かに吸い込まれるように、意識を失った。

                             ◆


「な、何だこの神気は!?」


 ヤマトタケルノミコトが、声を荒げた。
 亡霊たちを鎮める言霊を唱えていた蛍も、思わず止めてしまう。


「何、これッ・・・・・・!」


 ヤマトタケルノミコトも、この国の神である。
 しかし、ヤマトタケルノミコトが全力を尽くしても、それとは比べ物にならないほどの神気。






 それが、二つも————————————!!






 二人は呆然とする。



(一体、何があったんだ!?)



 暫くして、神気も収まった。
 すると、周りの様子が変わっていくことに、二人は気付く。



「ヤマちゃん! 亡霊たちが・・・・・・!!」



 蛍の言葉と同時に、亡霊たちは自ら防空壕に入っていく。
 そして、それと同時に、業火も鎮まって行く。

 やがて、亡霊たちと業火が完全に鎮まった時、天が現れた。


「天!」


 蛍が駆け寄って天の身体をゆする。少し、天がうなった。
 煤や小さな怪我はあるものの、大きな外傷はないようだ。蛍はほっとした。



「・・・・・・天が、やったのか」


 ヤマトタケルノミコトは思わず呟く。
 ありえる話だろう、と二人は想った。半分は人間とはいえ、残り半分はこの国の五本指に数えられる神。ヤマトタケルノミコトとは、かなりの大差がある。



「でも、あのもう一つの神気は、一体・・・・・・」


 それも、天より強い神気だったと想うが。
 そう呟いたときだった。