複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【千年桜 パート7更新!】 ( No.68 )
日時: 2012/05/12 16:06
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)

「いやいや、お見事です」


 パチパチパチ、と拍手をしながら、一人の男性が現れたッ……!

 男は黒いスーツを身に纏い、黒い髪で片目を隠している。



「まさか、その少年がこの国の神の封印を解かし、亡霊を鎮めるとは…流石、貴船の神のご子息でございますね」
「あーた…誰?」
「ああ、紹介が遅れました。
 影縫零(カゲヌイレイ)だ。よろしく」




 日本語のイントネーションがまちまちで、敬語とタメがごっちゃになっている。
 雰囲気からみて、外国から来たのだろうと、二人は思った。



『貴様が……私を封じたのか』




 それまで寝ていた天が、口を開いた。
 いや、天ではない。天に憑依した何者かが、口を開いたのだ。



「おや、流石はこの国の慈母神。
 御倉板挙之神(みくらたなののかみ)が壊れただけでは、その強大な神通力を失うことはありませんか」



 影縫の言葉に、蛍はぎょっとした。
 御倉板挙之神というのは、高天原の主の証である首飾りのことである。そして、高天原の主というのは、天照大御神の事だ。
 ということは、天に乗り移っているのは、天照大御神本人だ。




(った、祟られるぅぅぅ——————!!!)




 内心悲鳴を上げたが、蛍の矜持が許さなかった為、声には出さなかった。




『いや……貴様たちのお陰で、私は高天原の主である力を失ってしまった。御倉板挙之神に、魂移しをしていたからな……。
 しかし、貴様らを灰にする力は残っておるぞ』




 天の瞳に、一筋の光が差し込んだ。
 その威厳に、影縫は首をすくめる。




「おやおや、物騒なこと。
 では、私は退散しますか」


「待たんかい、影縫!」逃げる影縫の前を、蛍が立った。



「こんなことをして許されるとおもっとるのか、ええ!?
 自分がしたことに、オトシマエをつけんかい、オトシマエを!!」
「フ……デカイ口を叩けるのも、今のうちですよ言霊師」
「何……!?」



 反応したのは、蛍ではなく、ヤマトタケルノミコトだった。





「もうじき、この国は私たちの手に落ちる……その日まで、待ち続けるが良い……。
 その日まで……」




 ニヤリ、と口元に笑みを浮かべると、影縫はいつの間にか消えてしまった。

「消えた!?」

 蛍が悔しそうな顔をしていった。

「言いたいだけ言いやがって! 何が『この国は〜(以下略)』ったい!」
「落ち着け、蛍…」


 ヤマトタケルノミコトが、蛍を鎮めた。



「何だったんだ、アイツ…」
「アイツは…ぬらりひょん? じゃないったい。じゃあ…」

 外国にいるお化け…そして、神隠しを出来るほどのお化け……その時、頭の中にあるお化けの名前が降ってきた。



「ドッペルゲンガー……?」






 風にゆられて、木々が揺れる。その時、ザワザワと人々の声が響いた。
 どうやら、神隠しの原因が解けたお陰で、木々も、人々も戻ったようだ。

 皆が戻った安堵と、何か得体の知らない物の不安が、蛍の心の中にあった。



                  ◆


「へえ、俺が寝ている間に、そんなことがあったのか……」


 俺は、もうすぐ散ってしまう桜を眺めながら、呟いた。



「ああ…アイツの正体は良く判らないけど、神隠しまでして、まさか慈母神まで手を出すとは…」
「ホントに恐れ知らずだなあ…」


 俺と蛍は身震いした。——どうか、慈母神の祟りがこっちに来ませんように。


「にしても、慈母神が高天原の主の証拠である首飾りを失ったって聞いた時は、心臓が冷えたったい……しかも、人間界に、そのカケラが飛び散ったのやろ?」


 首飾りは粉砕されたが、決して無くなったわけではない。カケラとして、この人間界に飛び散ったのだ。
 首飾りが無ければ、主ではなくなってしまう。それに、首飾りに残された力は強大だ。カケラでも、かなりの力を持っている。その為、慈母神は人間界に降りたと、こういうことだ。


「まさか、このカケラが御倉板挙之神だったなんて…」


 蛍の両手には、様々な色をしたカケラが三つあった。
 そう。大蜘蛛と百足、呪いの人形と闘ったとき、このカケラがそれぞれの妖に埋められていたのだ。


「だから、不自然だったのだな。あんな雑魚妖怪に、あんな強大な力があるとは思えなかった」
「これからも、そう言う奴が出てくるのか?」


「そうだと思うったい」俺の質問に、蛍が答えた。


「この地はその名の通り、『神崎』。集まるのは、当然のこと」
「一応、慈母神からそのカケラを集めろと、命を下されているんだけどな」
「慈母神も、俺の身体にまだ乗り移っていて、休養してるし…」


 そう。あろうことか、慈母神は俺の身体に暫く乗り移ってもらうといわれたのである。


「何か、祟られなきゃいいけど…」
「「同感」」


 俺の言葉に、二人が頷いた。


「…でもまあ、今はこの綺麗な桜を眺めるったい」


 蛍が上を見上げた。
 もうすぐ、桜は散ってしまう。
 けれど、今度は優しい、青葉が出てくるだろう。
 もうすぐ——季節は夏を迎える。

「…そうだな」


 今は、楽しんでおこう。
 この、美しい桜を。