複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【龍と人の子パート1更新!】 ( No.74 )
日時: 2012/05/17 18:20
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)



「…ちょ、何でぶっ叩くの?」



 沸騰した変態野朗の頭に、おっきなたんこぶを作ってやったったい。




「良かったのう、たんこぶで。勢いで、骨を折ろうと思ったったい」
「ちょ、怖っ!!」





 えー…この男は、李忍(リニン)っていう、妖蝶ったい。
 外見は黒髪の黒い目、忍の服を着ておって、服の中にいろいろ忍具を隠していると思いきや、お菓子がたくさん詰まってるっていう、とにかく変態の中の変態。っていうか、厨二病?
 まあ、バイト変態じゃけど、一応妖にも効く薬も作れるけん、(一応)頼りになる変態ったい。……多分。





「…まあ、ええ。今日は、邪気を取り除く薬とだるさを取り除く薬を貰いにきたとよ」
「…ああ、この時期だからねえ」






 李忍は、テレビだったらモザイクをつけなきゃならないほどボコボコになった顔になっていた。…ちょっと、殴りすぎたじゃろうか?
まあ、のそのそと棚から取り、薬袋を取り出し、私に渡してくれたったい。






「どうぞ。千百円です」
「ありがとうったい」じゃら、と札と小銭を渡す。



「そう言えば、影花さんは? 居ないなんて珍しい」
「ああ、彼女は——」
「あら? 蛍さんじゃありませんか」





 李忍が言い終わる前に、店の奥から一人の女性が出てきたったい。


 この人が、影花さん。月狐という狐の妖ったい。髪は桜色のロングヘアーで、銀色の瞳をしている。服装は、灰色の和服を着ていて、足袋を履いている。狐時は、銀色の体毛に、体毛と同じ色の瞳をしていると。
 天然で、おどおどして人見知りじゃけど、穏やかで、美しい人とよ。




「こんちは、影花さん」
「こんにちは。今日は、薬を買いに来ましたか?」





 柔らかな笑みで、影月さんが聞いてきた。
 この笑みで、一体何百人ほどの男の心を射止めたかッ……!(本人は無自覚なんじゃけどね)





「そうじゃけど、もう済んだったい」
「そうですか、良かったです」





 そう言って笑う影花さんの右手に、薄い水色の液体が入った、三角フラシスコがあった。






「…それは、何々と?」
「ああこれは、所謂若返りですよ」





 ニコニコと影花さんが答える。






「例えば、筋肉が衰える病気を持つ人に、少し別の薬と混ぜて腕や足にかけると、一番調子が良かったときに戻してくれます」
「ええ!? それは、良い薬じゃなか!?」
「そうですね。でも、この薬若干強めで。副作用もその分大きいので、今効力を弱めているところなんですよ」






 へえー、と感心する。まじまじと、思わず見てみるったい。
 綺麗な水色…薄く、それでも清流を思い浮かべるような、そんな色……。
 でも、すぐに我に返ったったい。





「もう行かなきゃ!」
「え? 今日は急ぎの用ですか?」
「そうったい。明日、友人の誕生日で、今からプレゼント探しに行くったい」
「そうですか。良いプレゼント、見つかると良いですね。
 私もこの薬の改良を頑張りますので、蛍さんも頑張って下さい」




 影花さんは、フラシスコを持ち上げ、ウインクをして言った。
 それが思わず嬉しくて、声が上ずるったい。





「うん! がんばるったい!!」






 ペコリ、とおじきをして、慌ててノブに手を伸ばす。


 その時。







「あ、躓きました!」







 影花さんの声が後ろから聞こえた。
 慌てて振り向いたとき、全てがスモーローションに見えたったい。




































 ——何故か、フラシスコの栓が抜けて、
 液体が、私目掛けて飛んでくるところを。








































えぇえええええええええええええええええぇぇえ!?



 心の中で叫んでも、もう遅い。
 液体は、私の身体全体に濡れた。
 その途端、一気に身体が重くなる。






















「あっ……」




 バタ、と倒れ、眠気が私を襲う。




「きゃああ! 蛍さん、大丈夫ですか!?」
「おい、店長! 店長いねえのかぁぁぁぁ!?」






 遠のく意識の中、二人の焦る声が聞こえた。