複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【龍と人の子パート6、7更新!】 ( No.79 )
日時: 2012/05/21 20:20
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)


                          ◆


「……き、消えた?」


 蛍が『この時代』に消えた後、『この時代』の天は呆然と呟いた。
 いきなり現れて、いきなり消えた。


「……妖怪じゃ、無かった。……でも、アレは人間なのか!?」


 普通はいきなり空から降って現れて、いきなり発光しながら消えるなんてありえない。
 トンでもなく変な人だった。警戒心ゼロの、絶対頭の可笑しいやつだと思った。

















 でも。

 とても、温かい人だった。





(——『絶対、独りじゃない』か……)




 今の自分にとっては、それは絵空に書いた綺麗事だけど。
 それでも、どうしてか、信じてみようという気になっていた。





「……じゃあ、取りあえず帰るか」





 万人が見れば、腰を抜かすような出来事だったと天でも自覚している。が、しかし天は半妖。これしきの事で驚くことは無いのである。
 ジャ●コを出て、ふと天は気付いた。


 天と蛍は、バスに乗ってここに来た。
 しかし、その資金は蛍が出していたのである。つまり、天は無銭。






——つまり、ぶっちゃけると、彼はバスに乗れないのである。










 さっと、天の顔が青ざめた。
 施設まで行くには、三キロは歩かなければならない。




























「通行人のお姉さぁぁぁぁぁん!!! 一度で良いので、帰ってきてくれぇぇえぇぇえ!!!」








 通行人の痛い視線にも目をくれず、天は叫んだ。























 ——こんなことがあって、天のひねくれた性格が少しましになったのは。
 まあ、自分の時代に帰った蛍には、知る由も無かった。


                            ◆


 はい、どーも蛍ったい。
 おかげさまで、ちゃんと自分の時代に戻ることが出来たったい。


 ……と、いうもの、私が『あの時代』にいけたのは、やっぱり『若返りの薬(仮)』を全身にぶっかけたせいだったらしいと。その為、精神だけ『あっちの世界』に行くことになってしまったらしいったい。
精神だけだったら、幽霊みたいに幽体になって、ぶっちゃけ普通の人には見えないったい。けれど、まあ私が術師であることが幸い(?)して、普通の人でも見えるようだったと、こういうことったい。
ちなみに、その後影花さんの報せにより、慌てて来た薬局の店長に解毒薬を飲まされたお陰で、『こっちの時代』に戻ることが出来たったい。



 ……まあ、解毒薬を飲んでも、あの薬は強力だったみたいで、私が目を覚ましたのは夕方の六時。
 薬も天に飲ませたお陰で切らしたし、この時間だとプレゼント探しも後で行こうとした花屋さんにも行けないったい。





















 ——結局、収穫無しったい……。




 ガクー、と落ち込みながら家に帰るったい……。





「ただいまー……」
「蛍!? 遅かったじゃないか!!」




 玄関に入ったところ、仁王立ちして怒る天の姿があった。



「ゴメン……色々探し回ったんやけど、あーたに見合うたプレゼント見つからなかったったい……」
「はあ!? それまだ探し回っていたのか!?」



 いや、気絶していた時間が長かったから、それほど探し回っては……。
 …いや、『あっちの世界』では、ちっちゃい天の為に、かなり探し回ったったい……。




 ふと、脈絡も無く、ちっちゃい天の顔が脳裏に浮んだったい。
 そして思わず、天をじっと見る。





「……? 俺の顔に、何か付いてる?」
「あ、いや……プレゼント、見つけられなくてゴメン」
「何だ、そんな事」





 そう言って、一つため息をつく。





 …ちょ、かなり真剣に考えたのに、その呆れたような態度は何じゃ!?
 思わずむかっとして、天に噛み付こうとしたときったい。




 ポン、と天の手が私の髪に触れた。




「……その気持ちはとても嬉しいけど。
 でも、一番嬉しいのは蛍が俺の隣に居ることだよ」


















 ……。




 ボンッ! と、頭が破裂しそうだったったい。





「え、どした!? 何か熱くなってない!?」






 風邪をひいたのか!? ワー、順子さーん! と、騒ぐ天の様子に、沸騰していた頭が冷えた。





「あ、いや大丈夫。
 …けど天、あんまりその言葉は言わないほうがいいったい」
「え? …どして?」
「……」






 こいつ、将来は天然たらしになるんじゃないだろーか。
 少しだけ、天の未来を心配したったい。