複雑・ファジー小説
- Re: 水車の廻る刹那に【龍と人の子パート6、7更新!】 ( No.80 )
- 日時: 2012/05/21 20:21
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
…でも、それは天の本音と思うったい。
だって、ちっちゃい天も言っていたから。
『もし、生まれ変わることが出来たら。父さんと母さんが居て、出来れば兄か姉か、妹か弟が居て。それで、沢山の友人が居て。
……普通に、笑って暮らせたらって』
それは、きっととても小さな願いで、それでもそれに込められた想いは、とても大きくて。
…そして、どんな花にも劣らない、美しくて、……切ない想い。
……叶えてやろう、と想ったと。
そんな、胸が張り裂けそうな想いを、私が叶えたいって、想ったと。
次の日。
「天—、起きるったいー!!!」
私は朝早くから彼をたたき起こした。
「……ちょ、眠い」
実は順子さんも私が行く前に、薬局で薬を買っていたとよ。それを飲ませたお陰で、天は寝る前にはすっかり元気になっていたったい。
それでも、こんなに早く起こされたら眠いだろうな。
しかし、今日はそれを許すことは出来ないったい!!
何故ならば!!
「ほら、これ被って!」
半分瞼を閉じている彼の頭に、強制的に折り紙で出来た兜を被せた。
作ったのは実は手先の器用な勇気。色は天が好きな、黄緑ったい。
「今から、『第一回! こどんの日版神崎式バトルロワイヤル』を始めるったい〜!」
「……は?」
「ほら、着替えて着替えて! 武器は何でもええとよ? ヤマちゃんから授かった草薙剣でも、新聞紙で丸めて作った刀でも!」
「いやそれかなりクリオティの差がありすぎねぇ!? つーか、俺やるなんて一言も……」
「ええじゃん、勇気もヒナもヤマちゃんも紗織も居るったい! 皆で楽しもうよ!」
彼の最もな突っ込みに、私は笑顔で押し切ろうと思ったったい(だって彼の言い分最もだもん)。
…余談だけど、「またボクを忘れてませんかぁぁぁぁ!?」っていう、可愛らしい声が聞こえたような気がする。うん、気のせい。
まあいっか。取りあえず。
「ほら。皆、待ってるったい」
そう言って、満面の笑みで天に手を伸ばす。
……これが、一番望んでいたことやろ?
ゲームや食べ物や服やお金よりも、一番望んでいたことなんやろ?
彼を幸せにするなら。
まず、彼の周りにいる大事な人を、幸せにしなければならないったい。
彼は優しいから。どうしても、人を気にして、自分を抑えてしまうから。
だから、彼を笑顔にするには、まず私が笑わないといけないったい。
天は一瞬面食らったような顔をしたけど、すぐに満面の笑みでこう言った。
「……ふ。
いよっしゃああああああああああ! かかってこんかいぃぃぃぃ!!!」
「喧嘩上等じゃああああ!!」
その声と合図に、バトルロワイヤルが始まった。
「ちょ、紗織!! 水鉄砲とか反則じゃね!?」
「ふっふっふー! この水鉄砲の中身はねぇ…なんと唐辛子入りなのだー!!」
「目潰しは卑怯だぜ、紗織ーーー!!!」
「ちょっと、ボクを忘れてませんかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ギャーギャーと騒がしい私たちを、優しい眼差しで、大人たちは見守っていた。
神社の横に流れている川の傍には、紫色の花菖蒲の花が咲いていた。
そして、その川の上には、何処までも青く澄み渡る空がある。そこに、家族一緒で泳いでいる、鯉のぼりたちが何十匹も居た。
天も私も、幾つになっても、この昼の空は変わらないだろう。
それでも、私たちは笑おて居るやろうか。
「覚悟! 蛍!!」
「甘いわあ!!」
それでも、やっぱり。
今、天が笑っているなら、それでいっか。
……知っているかな、君は。
この川沿いに並んで咲く、花菖蒲の花言葉を。
「くっそー!! 奇襲をかけたのに、蛍ったらサルみたいにかわして…!」
「実際サルだろ」
「こら天ぃぃぃぃぃ!! アンタ何いっとるんじゃこらぁぁぁ!!」
「隙あり!」
「何ぃ!?」
この花菖蒲の花言葉は。
『貴方を信頼します』なんだよ————?