複雑・ファジー小説
- Re: 水車の廻る刹那に【絵を更新!】 ( No.86 )
- 日時: 2012/06/02 19:42
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
第五話 そして彼女は弁当を投げた
「——え、判らない?」
思わず、俺こと坂田天は聞き返した。
ただいま、ヒナと勇気と一緒に、校庭でのんびりと弁当を食いながら、前回の事件(題して「良く判らないけど神の祟りすらも恐れない妖に亡者を操って襲われたよ神隠し事件」。まあ判らない人は卯月編にして第三話の『千年桜』を読んでくれ)。
「あの事件を起こした首謀者っていうのが、判らないのか?」
「そーなの。あれから随分と調べたみたいなんだけど……どーも、敵は用意周到のようでね。
実際、わらべ歌を使って術を発動させたみたいなんだけど、その為なら術式とか色々用意しなきゃならなかったと思う。そう考えなきゃ、亡者たちは前にも襲っていたと思うのよ。
けれど、術式はおろか、術を使った形跡もなかった」
「良く判らないけど…とにかく、敵の行方は掴めないと言うんだな?」
「うん……一応、透視能力や行方を追えるような力を持つ術者や超能力者、妖が全力を尽くして探しているようなんだけどね……この前も、蛍が借り出されていたし」
「蛍が? アイツが?」
「あ、そっか。天は知らなかったな」
そこで、勇気が説明した。
「蛍は世界で十人しか居ないと言う、『聖人』の一人。しかも、その中での順位は第四位だ」
「聖人?…って、凄いのか?」
俺が更に聞くと、興奮したように二人が説明する。
「『聖人』っていうのは、神に最も近いとされる人間の事だよ! もうね、なんていうかこう…凄いんだから!」
「そうそう! だから、アイツが本気だしたら、俺達なんか太刀打ち出来ねぇぜ!? 何しろ、直接この国の神から言霊の力を与えられた人間だからなあ!!」
「あ、うん…良く判りました」
どうどう、とわざわざ顔を近づけ力説する二人を抑える。
『聖人』——まあ、確かにそうだろうな(何せ一緒に同居してるのがこの国の神だから)。
けれど……それは、アイツにとって、嬉しいことなんだろうか?
この二人は興奮しながら言ってるけど、実際、凄くて名誉なんだろうけど。
でも、強大な力を持つってことは……。
「ん? 何かしら、この音」
ヒナの言葉に、はっと我に返る。
危ない危ない、また深く考える癖が出てしまった。
「確かに、ヒュウウウウウ…って音が聴こえるな」
「…ああ。まるでモノが落ちてくるような…」
勇気の言葉に、俺も頷く。
けれど、ヒナは笑いながら否定した。
「あっはっは、まっさかー。漫画じゃあるまいし。
それに今日は、雨すらも降らないって天気予報で言ってたよー?」
「……いや、天のいう事はどうやら正しいようだ」
「「…え?」」
俺とヒナの声が重なった。
勇気の顔を見ると、勇気は校舎の上を見ている。心なしか、青ざめているようにも見えるけど、気のせいだろうか?
「どうしたの?」
「…見ろよ、アレ」
勇気の指差す方向を、ヒナと俺は見る。
そこには、もの凄いスピードで落ちてくる、弁当が——。
「…は? 弁当?」
ヒナがスットンキョーな声を出す。
——ってか、アレ。
こっちに向ってきてないかァァァァァァァァァ——!?
「ちょ、待ってェェエェェェ!!」
俺の叫びも虚しく、弁当は俺達の弁当の上に落ちてきました。
グシャア!! と、聞きたくない音が響きます。
「「「…ちょ、」」」
俺達は三秒間固まって、全員で叫んだ。
「「「貴重なお昼ご飯がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」」
残念なことに、弁当はもう食えない。
俺たちはあまりにも悲しさに、明後日の方向を見た。
——今日の天気予報…外れたな。