複雑・ファジー小説
- Re: 水車の廻る刹那に【そして彼女は弁当を投げた パート1更新!】 ( No.90 )
- 日時: 2012/06/07 18:52
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
◆
「——ああ、それは最近引っ越してきた、冬風恋ちゃんだね」
家に帰って、今日の不幸を食卓の場で話すと、紗織が苦笑いで言った。
「うちの部活の後輩が言ってたよ。なんか、後ろの席の子に牛乳をかけられちゃって、キレた恋ちゃんが窓からその子の弁当箱を投げたってね」
「ず、随分過激だな…」
ヤマちゃんが引いている。
まあな。俺だって引くよ。だってそこまでするか? 普通。相手もわざとじゃなかったみたいだし。
「ふぃゆくぁぜるぇん?(冬風恋?)」
「蛍、食べるか喋るかにしろ」
俺が突っ込むと、蛍がゴクン、と飲み込んでから言った。
「冬風恋って…確か、仁比山神社に引っ越してきた子じゃなか?」
「…ああー、影花が住んでいるあの神社か」
影花というのは、月狐という妖で、俺はまだ会った事はないが、どうやら俺が不調だったときに薬を調合してくれたらしい。
仁比山神社というのは、この家から数十分歩いたところにあり、ここらへんでは一番大きい神社。そこには、稲荷を祀っている社があり、そこに影花は住んでいるとか。
「ああー、恋ちゃんねー」
「知ってるんですか? 順子さん」
俺が順子さんに聞くと、順子さんはちょっぴり気まずそうな顔をしていった。
「確か、東京から引っ越してきた子らしかよ」
「天と一緒じゃね……」
蛍が少し驚いている。
まあ、俺も驚いてるよ。何せ、この時期に同じ東京から引っ越してきたなんて、ちょっとした偶然だからな。
「まあ、仕方ないとおもうばい」そこで順子さんが、少し声を抑えていった。
「…なんでも、妖が見えるせいでいじめられていたらしか」
その言葉に、俺達はどう反応すればいいのか、判らなかった。
◆
次の日。は、土曜日なので、学校はお休みだ。
ので、俺は巫女である蛍の手伝い(境内の掃除)をしていた。
「今日は良い天気ばいー」
背伸びをしながら、蛍は箒を手に取った。
「やっぱ早起きは気持ちええったい! なあ、天」
「……」
「天?」
「…ああ! ゴメン。ボーっとしてた」
「夜更かし? 無理して手伝わんでもええとよ?」
心配してくれる蛍に、大丈夫と返す。
あんま納得してないような顔だったが、とりあえず蛍は「判ったったい」と返事をしてくれた。
意外と心配性だからな、蛍は。
どうやら俺は、信頼はされているが信用はされていないらしい。何故だろう? 俺なんもしてないのに。
「さあって、お掃除お掃除」
まあ、でもいっか。
楽しそうに境内をはわく蛍を見て、思わず俺は頬を緩めた。