複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【そして彼女は弁当を投げた パート3更新!】 ( No.94 )
日時: 2012/09/18 20:10
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: FIlfPBYO)












 …何でこうなるんでしょう。
 確か俺らは、回覧板を回す為に、仁比山神社に向っていたはずだ。
 なのに、だ。


「さっさととっとと家に帰れぇぇぇぇぇぇ!!」
「それを降ろしてくれたら帰りますってぇぇぇぇぇ!!」


 …なんで、凶器(包丁)を持った冬風恋先輩に、俺だけ追いかけられているんでしょう。
 誰か、この状態を俺に説明してください。切実に。









 階段登っている途中、大きな池があって、うっわー、大きい魚だなー、って感心して。
 んで、更に登った所に、寺があったから更にうっわー、素敵な建物だなー、と感動して。
 また階段を登って、やっと本殿(&離れの家)について、神職さんに回覧板を渡したら、(包丁使った)お昼ご飯の準備をしている冬風先輩にバッタリ。
 真っ白のワンピースをまとった冬風先輩は、身長が俺より少し高かった。肩より少し長い、綺麗な黒髪。それを水色のリボンで軽くあしらっている(ハーフアップ、というのだろうか)。
 わー、美人だなー、って思っていたら、何かいきなり不機嫌そうな顔をされて。
 と思ったら、いきなり「あんた、私とあったことある?」と聞かれる。
 やっぱり会った事があるのかな? と思ったが、中々思い出せない。
 良く分からないので、「さあ…多分、人違いかと」と言うと、「そう」と素っ気なく返された。
んで、神職である冬風先輩のお父さんに「せっかくだから、一緒に昼ごはん食べないか?」と誘われ、俺より先に(腹が減っていた)蛍が二つ返事で返した。
 別に俺は困らないので、後で順子さんに電話しなきゃなー、とか考えていると。











「嫌よ」


 冬風先輩が、キッパリと言った。
 そして、俺の方に指を指しながら、こう言った。


「こんな奴に私が作った飯を食わせるなんて、絶対に嫌! ってか、一緒に並ぶだけでも嫌!!」


 …なんていわれた。


「おい、その言い方はないだろう!」と神職さんが叱ったが、冬風先輩は癇癪を起こし、包丁を振り回して俺を追い掛け回してる…と、こういうことだ。












「だからさっさと出ていきなさ———————————い!!」
「ぎゃあああああああああああああああああ!!」


 で、今に至るわけなのだ。
 色々ショックです、俺。
 初対面で女の子に嫌われ、かつ包丁振り回されて追いかけられているとか、滅茶苦茶悲しんだけど。
 そして、神職さんは叱るけど、茂みの中に隠れてるし。
 蛍は蛍で、呆然として立ち尽くしてるし。誰も助けてくれないとか、とっても哀しいんだが。
 あ、やばい、涙出てきた。
 ってか神職さん、親のくせに止めずに自分だけ隠れるとかどんだけヘタレなんだ。
 ああそうなのか、自分の身が可愛いのね。実の娘を止めず、追いかけられてる子供を見捨てて、自分だけ安全地に居るつもりなのね。ああどうなっていくんだろうねぇ日本の未来はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 今にも、鬼の形相で包丁持って迫ってくる先輩が居る。
 俺は元々体力無いし、流石に疲れてきた。
ちょっと危険な賭けに出るが、ええい、こうなったら男は度胸だ!

 俺は一旦止まって、彼女の方へふり向いた。


「出て行きます!! 出て行きますから!! だからその包丁降ろして!」


 俺が止まったからか、先輩はキキーッ! と急ブレーキをかけた。
 鬼の形相が、普通の顔になる。
 先輩はゆっくりと、包丁を降ろした。
 その時、右手の手首に巻いてあるリストバントの隙間から、傷跡が見えた。













 その時。
 ドクン!! と、心臓が言った。

 …あ?
 まるで血流が逆流している様に。激しく心臓が鳴り響く。















 ドクン! ドクン! ドクン!


 …何だ?


 息が苦しい。胸が痛い。







 …何だ? 何がどうしたんだ?








「…判れば良いのよ。さっさと出て行きなさい」


 俺の様子に構わず、落ち着いた先輩が言った。
 さっきの様子が、嘘みたいだ。