複雑・ファジー小説

Re: 水車の廻る刹那に【秋分の日の絵更新!】 ( No.96 )
日時: 2012/11/16 18:49
名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: qgJatE7N)


 先輩が正気に戻ったのを計らって、蛍がポン、と俺の肩を叩いた。


「帰ろう、天」

「…ああ」




 蛍の言葉に、俺は素直に頷くしかなかった。





                      ◆



「……なあ、さっきおかしかったよな」
「まあ、色々ツッコみたいことはあったばい」



 蛍の言葉に、俺はチョット驚く。
 ボケ担当のこいつにも、突っ込みたいときはあったのか、と。



「中身と外側をひっくり返してみる?」
「ゴメンナサイ」



 ニッコリ、と笑った言霊師様が怖かったので、すぐに謝る。
 一度、それをされたことがある。痛かった、ホント。
 んな拷問技も出来る言霊師は、心も読めるんだろうか。恐ろしい。

 まあ、それはともかく。




「……俺は冬風先輩の名前に見覚えがあった。
 あっちも、俺と何か面識があるようだし」
「あともう一つ。あーた、妖気が逆流しとったよ」
「逆流?」
「簡単にいえば、暴走ってことったい。一方通行のモノを逆流させたら、色々パニックになるじゃろ。それと同じ」
「はあ」




 判るような、判らないような。




「とにかく、危険な状態ってことか?」
「そゆうことったい」




 ……いわれて見れば、確かにそんな感じだった。
 血流が逆流するような、渦が沸くような、そんな感じ。
 思い出すと、未だに冷や汗が止まらない。何だか、怖い感じだった。


「俺、あんな風になったのは多分はじ……」




 『初めて』といいかけて、俺は口を閉じる。





「どうしたと?」



 足を止めた俺に気付いた蛍は、こちらに振り向いた。



 あの感じは……『初めて』?





「……違う」
「え?」










「俺は、前にも一度、あの感じにあったことがある……!」



                         ◆



「……うそつき」




 天たちが去ったほうを見ながら、恋はひっそりと呟いた。




「……ずっと忘れないって、いってくれたのに。
 嘘つき。私が人間不信になったの、全部アンタのせいだから」

 言葉は辛らつだが、声は、悲しみを堪えたような声だった。
 長い髪が風とともに揺れる。隠れていた首元が、さらされた。
 そこにはくっきりと、深い、深い傷跡が走っていた。


「——嘘つき……嘘つき……!!」



                             続く